レンジャー候補生時代、小銃を胸の前に抱えて走る「ハイポート」に臨む前田さん(写真中央)※以下、写真はすべて前田さん提供/画像の一部を加工しています

「ミラノ風カツレツ」さながら?ヘビの素焼きの味は…

 候補生たちが受ける約3カ月におよぶレンジャー養成訓練は、懸垂や持久走などのトレーニングによって徹底的に体を鍛える「基礎訓練」の後、ゲリラコマンドの技術を身をもって学ぶ「行動訓練」へと移行する。

 過酷さに拍車がかかるという行動訓練の実態について、前田さんはこう話す。

「約1カ月間、常に戦場にいる想定で行われます。夜中であろうが突然召集がかかり、そのたびに山の中などで数日間の任務に臨みます。任務中は不眠不休なので、『○泊○日』ではなく『○夜○日』と呼んでいました。50キロの装具を持って、50キロの道のりを3夜4日歩き続ける任務もありました」

 補給物資が来なくてもサバイバルできるよう、生きたヘビやカエルの食べ方を学ぶ実習もあった。「ミラノ風カツレツ」さながら、銃剣でたたいて平たくのばしたヘビを素焼きにしてしゃぶると、「生臭い鮭とば」の味がしたという。

 前田さんにとって何より耐え難かったのは、水分摂取量が制限されていたことだ。

「ものすごくのどが渇いているのに、上官からは『ペットボトルのキャップ2杯までしか飲むな』なんて言われる。のどちんこがカラカラに干上がりました。私は渇きに耐えられず雪を食べてお腹を下しましたが、なかには自分のおしっこを飲んでしまう人もいましたね……」

 肉体も精神も限界を迎え、泣きながら「もう訓練をやめさせて下さい」と上官に手を合わせる仲間もいたが、少なからず「ここであきらめるな、頑張れ」などと叱咤激励を受けていた。一方で、「根性なしと思われたくない」というプライドから、わざと崖から落ちるなど大怪我をすることで訓練を離脱する者までいた。

 約30人の候補生になっても、訓練をやり遂げてレンジャー隊員になれるのは7割程度。大量に脱落者が出て5人ほどしか残らなかった年もあったという。

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