その山梨学院に敗れたものの、印象的だったのが公立高校の光(山口)だ。エースの升田早人は初戦、彦根総合(滋賀)を相手に99球3安打完封と見事な投球を見せた。同校のOBでもある守田さんは感慨深げに語る。
「昨夏の山口大会初戦で升田は先発し、初回に5失点し敗戦しました。そのとき『悔しがり方が足りない』と闘魂注入され、必死に練習して全国の舞台にたどり着いた。升田に牽引され、チーム全体もレベルアップしていましたね」
活を入れたのは外部コーチの田上昌徳さん。85年の選手権大会決勝で桑田真澄、清原和博擁するPL学園に敗れた宇部商でエースだった。田上さんの指導で升田は成長を続けている。
「彼の強みは直球の質の高さ。球速は140キロ前後だが、140キロ台後半に見える伸びと勢いがあって、わかっていても気づいたらもうミットに収まっているような印象です。エンゼルスの大谷翔平のようなきれいなバックスピンがかかっているのでしょう」(安倍さん)
制球もよく、フォームは直球でも変化球でも一定でブレが少ない。
「超掘り出し物といっていいでしょう。夏もぜひ見たい逸材です」(同)
同じ公立高校の選手では、能代松陽(秋田)のエース・森岡大智も特筆すべき活躍だった。2戦目で春連覇を狙う大阪桐蔭を相手に快投。わずか2安打に抑え接戦を演出した。
「優勝候補校の打線を手玉に取り、大阪桐蔭の倒し方の見本になるような投球を見せました。低めを丁寧に突き、失投がほとんどない。精神面にブレがなく、ポーカーフェース。強靱な精神力は好投手の第一条件です。春の時点でセルフコントロールができているので、さらなる成長があるだろう夏が非常に楽しみ」(同)
大阪桐蔭の前田悠伍も夏が楽しみな好投手だ。昨夏の時点で、「投球の質もさることながら、守備、牽制、クイックとできないことがなく、オールラウンダー。野球センスの塊」と安倍さんは絶賛していたが、さらに図抜けた存在になっていると激賞する。
「相変わらずの完成度の高さですが、選抜ではさらに、打者によって力配分を変える大人の投球ができるようになった印象。絶対に打ち取れるという自信がないとできない芸当です。全国の強者がそろう甲子園の舞台でできるのですから、圧倒的な存在感です」
(本誌・秦正理)
※週刊朝日 2023年4月28日号より抜粋