なお、総務省の「家計調査年報」(2023年)によれば、夫婦ともに65歳以上の無職世帯(夫婦のみの世帯)の消費支出は約25万円、単身者の消費支出は約15万円。つまり夫婦世帯の場合、年間の支出は300万円という計算になる。
「となると65歳以降は無収入で預貯金を取り崩す場合、70歳までの5年間で1500万円の支出と、かなりまとまった額になります。加えて住宅ローンが残っているとなれば、さらに出費がかさむことになる。働く予定がなく繰り下げを考えている人は、そのぐらいの額を預貯金から取り崩しても、まだ老後資金に余裕があるかどうかが一つの基準になります」(有田さん)
「加給年金」がもらえなくなる
自身も年金世代であるファイナンシャルプランナーの浦上さんは、繰り下げの2つのデメリットについて強調する。1つ目が、年金を繰り下げると、家族手当に当たる「加給年金」がもらえなくなること。加給年金とは、現役時代に会社員または公務員であった第2号被保険者が65歳になった時点で、65歳未満の妻または18歳未満の子がいるときに支給される年金。専業主婦家庭なら、夫が65歳になって配偶者が65歳になるまでの間、年間41万5900万円もらえるが、厚生年金の繰り下げ期間中はそれがもらえなくなる。
「例えば、夫と配偶者の年齢の差が10歳の場合で、夫が75歳まで繰り下げると、本来もらえるはずの10年分の加給年金415万9000円がもらえなくなる。夫と配偶者の年の差が5歳でも、207万9500円を失うことになるため、注意が必要です」
2つ目が、繰り下げにより年金受給額が増えても、税金や社会保険料の比率が増えるため、実際の手取り額は年金受給額ほど増えないという点だ。税金や社会保険料は、他の所得があるかどうかや、住んでいる地域、年齢などによっても異なるため一概には言えないが、収入ベースでは1.84倍になった年金を受け取ることができても、手取り額はそれより少なくなることを忘れてはならない。