三つ目の「自己満足」とは、ワクチン接種とその疾患にかかるリスクとを比較検討し、「自分にとってそのワクチン接種は必要ではない」と判断して「自己満足」する結果、ワクチン未接種につながるというわけです。「これまでにインフルエンザになったことがないから、自分にはワクチン接種は必要ない」「ワクチンを接種してもどうせインフルエンザにかかるから、ワクチンは必要ない」これらは、外来の現場でよく聞かれたインフルエンザワクチン接種は必要ないと判断する「自己満足」した一例です。思った以上にそうおっしゃる方が多かったことを覚えています。
「ワクチンの話題はまずい」と思った瞬間
ここで、ワクチン接種忌避に関する私のアメリカでの経験を共有します。昨年の10月のある日のことです。ジム仲間の4名ほどと、たわいのない話をしていたら、いつも通り「ジムから帰った後、予定はあるの?」と聞かれたので、「クリニックに行くよ」とたまたまその日の午後に予定していたコロナとインフルエンザのワクチン接種にいくと答えたのです。
すると、「なんでワクチンなんかを打つんだい」と、みなワクチン接種に行くものだと思っていた私にとっては思いがけない質問がとんできたのです。「コロナのワクチンすら打ってないよ」「ワクチン接種なんか必要ないよ」「ワクチン打ってなくても、この通り元気さ、コロナにもなってないよ」なんて、話はどんどん進みます。
「病院で勤務していたし、毎年打っていたから……」ととっさに答えると、「ああ、医療従事者は仕方ないよね」「それなら、わかるわ」と言われたのでした。「これ以上、ワクチンの話題はまずい」そう思った私は、違う話題に変えて、なんとかその場を乗り切りましたが、「ワクチン忌避」は思った以上に身近に潜んでいることを体験した出来事でした。
最後に、昨年5月にランセット誌に公開[※12] された、WHOによる予防接種拡大プログラムに関する報告をご紹介します。その報告によると、1974年以来、ワクチン接種の普及によって1億5,400万人の命が守られ、世界のあらゆる地域で小児の生存率が大幅に向上したことがわかりました。特に、麻しんのワクチン接種は乳児死亡率の減少に最も大きな効果をもたらし、ワクチン接種によって守られた命の60%をも占めていたことがわかったといいます。
「ワクチン忌避」が容易に解決できる問題でないことは十分理解していますが、ワクチン接種により多くの命が守られてきて、今も守られているという事実にも目を向けてもらえたら、麻しんの感染拡大も抑止につながるのではないかと思います。
【参照URL】
[※1]https://www.cdc.gov/globalhealth/measles/data/global-measles-outbreaks.html
[※2]https://www.cdc.gov/measles/data-research/index.html
[※4]https://www.who.int/emergencies/disease-outbreak-news/item/2025-DON561
[※5]https://www.cnn.com/2025/03/28/health/measles-outbreak-crosses-450-cases/index.html
[※6]https://www.yomiuri.co.jp/medical/20250318-OYT1T50087/
[※7]https://www.niid.go.jp/niid//images/idsc/disease/measles/2025pdf/meas25-11.pdf
[※8]https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/73/wr/mm7341a3.htm
[※9]https://www.cdc.gov/globalhealth/measles/data/global-measles-outbreaks.html
[※10]https://www.jpeds.or.jp/uploads/files/20231211_MR.pdf
[※11]https://www.niid.go.jp/niid/images/idsc/disease/measles/2023-mr-pdf/2023_0-2.pdf