「身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ」

 不信任案可決にこぎつける可能性は十分にあると言ってよい。

 次に、石破首相が総辞職ではなく、衆議院解散の選択をできるかというハードルがある。法理論的には、石破首相には解散の権限が与えられている。しかし、現実には、自民党内がほぼ一致して反対し、森山裕幹事長はじめ有力者も止めに入るのは確実だ。これを押し切って解散すれば、自民党から実質的に永久追放となる可能性がある。

 だが、石破首相が解散に踏み切る可能性はあると私は見ている。

 多くの国民は、石破首相に自民党政治を根本から変えてほしいと願って、最後の望みを託した。石破首相も当初はその国民の負託に応えようと考えていたはずだ。しかし、党内力学で、石破首相は多くの公約を反故にせざるを得なくなっている。結局、元の木阿弥という状況だ。

 商品券問題は、石破首相への最後の一撃のように思えるが、ここにきて明らかになったのは、これは石破氏だけではなく、自民党の体質の問題だということだ。石破氏も国民の常識との乖離を深く反省している。

 もし本当に反省しているのだとすれば、企業・団体献金禁止を掲げて衆議院を解散し、それを支持する自民党議員(数は少ないだろうが)とともにもう一度戦ってみてはどうか。

 もちろん、それで自民党が勝つとは思えない。

 しかし、野党第1党の立憲も大きく票を伸ばすことはなさそうだ。その場合は、仮に政権交代になり、石破氏が野党議員に転落したとしても、石破氏を中心とした新しい政党を立ち上げ、まずは、立憲と協力して企業・団体献金禁止を実現し、日本の贈収賄政治を根絶すればよい。

 そうなれば、「黒いカネのしがらみで改革に踏み出せない自民党」の崩壊を横目にしながら、選択的夫婦別姓実現はもちろん、石破氏が本来やりたかった医療・年金・介護などの社会保障制度の抜本改革、地方創生や農業改革などの大胆な政策転換を思い切り主張できる。石破氏への国民の信頼が回復し、数年内に行われる次の衆議院選挙や3年後の参議院選挙で大きな勢力を得ることも夢ではない。

 仮に再び首相になれなかったとしても、自民党の贈収賄政治を根絶した政治家として、歴史に名を刻むのは確実だ。

 支持率が落ちたとはいえ、石破首相に辞任を求めるのは少数派だ。多くの国民が、石破氏以外に良い政治家がいないと感じている。その期待に応えるのが政治家石破茂の責務である。

「身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ」

 今の石破首相に一番相応しい言葉だと思うが、いかがだろうか。

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