
性教育をタブーにせず
確かに、その言葉がけひとつで生徒が受け取る印象は大きく変わる。時代の流れに応じて、指導方法を変えていくことは、ジェンダー観のアップデートには欠かせないが、それは共学でも同じだ。
東京都立農業高校で公民の教諭を務める塙枝里子さんは、ジェンダー観の育成に欠かせない授業について、こう話す。
「例えば、『LGBT』は性的マイノリティーと訳されており、10人に1人の割合であるため、その他の人は、自分ごととして捉えにくくなってしまいます。そこで私は、『SOGI(性的指向と性自認)』という概念を用いて説明するようにしています。そうすることで、自分自身の『性のあり方』を考えることになり、より身近なものとして理解しやすくなるのではないかと思います。性の問題を他人事として終わらせずに、自分ごととして考えられるような教育を目指しています。タブーにしないということですね」
女子校でも男子校でも、そして共学でも求められるのは、リベラルなジェンダー観と性別役割分業意識からの脱却だ。
親の先入観の影響大
だが、それはそもそも学校だけで教えることができるものなのだろうか。前出の塙教諭は、こう指摘する。
「私が担任を務めている共学高校では、生徒たちは学校の中で『女はこうあるべき』とか『男はこうあるべき』といった考えを、そこまで強く感じていないようです。近年は男女平等や機会均等が重視されているため、性別関係なくさまざまなことを経験する機会があるからでしょうか。しかし、進路指導のタイミングで家族から『女子だから専門学校でいい』や『男子だから大学ぐらいは出なさい』といった言葉が出てくることがあります。つまり、ジェンダー・バイアスは親の先入観による影響が大きいのではないかと感じています」
やはり、ポイントは学校より家庭にあるのだ。塙教諭は、続けてこう訴える。
「アイデンティティーの形成の中で、男性性や女性性について考えることは、ひとつの自己認識の一環だと思います。『男らしさ』や『女らしさ』ではなく、重要なのは、自らのあり方や生き方を考えていくことです。だからこそ、『自分を確立していくことが大切』ということを、学校でも家庭でも、しっかりと伝えることが大事なのです」
男女の役割や、それぞれの生き方についてフラットな価値観が何より必要とされる時代である。女子校、男子校、共学といった学校のスタイルに関係なく、求められているものは同じようだ。(ライター/編集者・千駄木雄大)
※AERA 2025年3月24日号より抜粋

