
【鴻上さんの答え】
奮闘中さん。つらいですね。そして、頑張っていますね。奮闘中さんの文章を読んで、自分のことのようだと深くうなづいている先生達が全国にたくさんいると思います。
奮闘中さんの相談に答える前に、少し、僕の話を聞いてください。
僕は演劇の演出家をもう45年近くやっています。そのほとんどを劇団の主宰者として、運営してきました。
劇団の主宰者としての目的は、いくつかあります。劇団に多くのお客さんが来て欲しいとか、所属の俳優が売れて欲しいとか、スタッフが育って欲しい、とかです。
所属の俳優が売れるためには、「魅力的な俳優」になることです。
でも、「俳優の魅力」なんていう曖昧なものを追求するのは簡単ではありません。「演技力」とか「センス」とか「生き方」とか、いろんなものによって構成されるだろうと思います。
22歳で「第三舞台」という劇団を旗揚げして以来、「どんなアドバイスをすればいいのか」「どんな演出をすれば演技は上達するのか」「どんな本や映画・演劇を薦めれば、俳優の幅は広がるのか」なんてことをずっと考えてきました。
新人の俳優が入団してきたら、話し込み、相手を理解しようとし、役を書き、演出し、舞台以外のさまざまなアドバイスをし、俳優として育って欲しいと願いました。
3年とか5年、そうやって、濃密な時間を過ごしたある日、その俳優は、突然、「劇団を辞めます」と言ったりします。劇団を辞めるだけではなく、俳優も辞めるなんてことを言う場合もあります。
「虚構の劇団」という別な劇団を49歳の時に旗揚げしました。若者だけを集めた集団でした。
10年つきあって、もうすぐ売れる、もうすぐ俳優業だけで十分な生活ができるようになる、という直前に、「俳優を辞める」と言われたこともあります。
その俳優に注いだエネルギーと時間は膨大なものでしたから、その瞬間、共に過ごした日々が、まさに走馬灯のように頭の中で駆け巡りました。
そういう時、あまりのショックで、「もう俳優を育てるのはやめよう」なんて考えてしまいます。
奮闘中さん。
僕が言いたいのはここからです。