芸能界を目指す人ばかりではない

 売り子のアルバイトをしているのは芸能界を目指している女性だけではない。現在セ・リーグ球団に勤務する女性職員は、学生時代に売り子のバイトをしていた。

「野球が大好きなのでアルバイトに応募しました。いざ働くと、ビールを売るのが大変で、試合を全然見られなかったですけどね。色々なお客さんがいて楽しかったですよ。応援しているチームが勝っている時に上機嫌になって他のお客さんにビールをおごる人や、『お釣りはいらないからもらっときな』というお客さんもいました。ちゃんと返しましたけどね」

 球場内での売り子の撮影禁止については表情を曇らせる。

「うーん、どれだけ効果があるか疑問ですね。誰もがスマホを持っているし、売り子を撮影していても『グラウンドの選手を撮っていた』と言い訳した場合にどうするのか。今のカメラは解像度が高いので、少し映り込んだだけでもアップにすれば顔がはっきり映る。撮影禁止にするだけでなく、違反した場合は球場への出入り禁止にするなど罰則が必要だと思います」

 売り子の撮影禁止を定めたのは西武が初めてではない。ソフトバンク楽天も売り子の撮影を禁止しており、球場に行くと売り子が背負うビールショルダーに「撮影禁止」と書かれた字が確認できる。そもそも12球団が規定しているプロ野球観戦ルールでは、チアリーダーや売り子も含めて「他の観客並びに主催者の職員等に迷惑を及ぼす」撮影や「身体の一部を拡大または強調して撮影する行為」などを禁じている。営利目的の撮影を禁じている球団・球場も多い。

 一方で、球場を彩る存在として売り子のアイドル化を図り、PRする戦略を図る球団もある。楽天はいつも笑顔で頑張る売り子が主役になるイベントとして、23年から「売子night」を開催している。昨年は7月と9月に実施し、その日の試合で売り子が始球式を行ったり、ビールやソフトドリンクを購入した来場客に売り子カードをプレゼントしたりした。ただ、イベントの注意事項には「イベント出演時を除き、売子の撮影は一切禁止いたします」とも記されていた。

 売り子に対して撮影などの迷惑行為をするのは、ごく一部の観客だ。ただ、その客の行動によって、野球観戦を楽しみにしていた周囲の客は不快な思いをする。売り子たちが快適に働ける職場環境を実現するためにも、全球団でルール整備を徹底するべきだろう。

(今川秀悟)

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