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「韓国人のほうが日本人より英会話力がある」――こんな見解が、半ば常識になっているようだ。格差が付いてしまったのはなぜか。実は韓国は極めて冷静に、理にかなった方法で、国と企業が率先して英会話力を伸ばしたのだ。韓国の財閥系大手企業サムスンが思い切って行った、人材育成の施策にもヒントがある。(パタプライングリッシュ教材開発者 松尾光治)
韓国人と日本人、英語力に差が付いたワケ
「なぜ韓国人は日本人よりも英語が話せるんだ?」「韓国の若い世代は英語にとても慣れているよね」
ニューヨーク在住の筆者の周りでは最近、日本と韓国の両方を旅してきたアメリカ人が増えているのだが、よくそんな質問をされる。「韓国人のほうが英語を話せる」というのは、両国を知っている外国人にとっては常識になっているようだ。
20年前までは「勤勉で勉強熱心なのに英語の話せない国民」の双璧を成していた韓国と日本。いつの間にか大きく水をあけられてしまった。なぜ、こんなことになってしまったのか。残念で仕方がない。
韓国は1997年に小学校3年生から英語を必修化した。このスパルタ早期教育のおかげだろうか?それとも、国土が狭いからビジネスのグローバル化を日本より先に進めざるを得なかったから?日本人に比べると自己主張が強く、英語においても発音や文法の間違いを恐れないから?
答えは、どれもイエスだろう。ただし、これらとは異なる「あっけないほど単純な理由」もある。極めて冷静に、理にかなった方法で、国と企業が率先して英会話力を伸ばしたのだ。
この方法は、日本でもすぐにまねできる。別に国や企業任せにしなくたって、個人でも可能だ。
TOEIC Speaking & Writingの早期導入と浸透
韓国人の英会話力が爆上がりした理由は、日本で「TOEIC」を指すTOEIC Listening & Reading(L&R)だけでなく、TOEIC Speaking & Writing(S&W)が浸透しているからだ。
日本と同様、韓国も学歴が重視される社会だ。その競争の熾烈さは日本の比でない。就職や大学受験で重要視される英語関連テストでは、高スコアを獲得するために努力を惜しまない。そして、英語競争は就職後も続く。中堅社員であっても英語力を上げ続けなければ出世に響く。
日本と並ぶTOEIC大国の韓国だが、TOEIC L&Rでは実践的なアウトプット力が身に付かないことにも早くから気づいていた。そこで、TOEIC S&Wを普及させたのだ。
公表数字でも、韓国と日本の差は明らか。TOEIC S&Wが韓国に導入されたのが2007年で、即座に採用した企業は150社以上、12年には1300社以上の企業に広がっている。それに比べて日本は、15年時点で採用企業がようやく250社、学校が130校となっている。
韓国でのTOEIC S&W受験者数は約30万人(15年)に対して、日本での受験者数は2万6300人と一桁違う。韓国の人口が日本の約半分であることを考えると、普及度のギャップは歴然としている。
日本におけるTOEIC S&W受験者数は、TOEIC L&R受験者数の50分の1に過ぎない(22年)。韓国がアウトプットスキルも重視することに舵を切ったのと対照的に、日本ではTOEIC L&Rに極端に偏っていて、インプット中心の歪んだ英語テスト志向が、今日まで続いているのである。