イーロン・マスク氏(写真:AP/アフロ)

突然「Xのルールに違反した可能性」を告げられる

 なぜかというと、一流シェフの下で何年も下積みの修業をするというのが、平均的アメリカ人から見ると割に合わないのだという。ステレオタイプな議論かもしれないが、筋骨隆々の屈強なアメリカ人と下積みの修業がしっくり来ないというのは妙に納得感がある。

 日本では、徒弟時代の名残があり、有名シェフの下で修業したいという若者が多いようだが、そのうち、日本でもそうした下積みを嫌う若者が増えれば、途上国から来た人々が高級和食の料理を作るという時代が来るのかもしれない。それをどう考えるのか。

 今、ニューヨークも東京以上に人手不足が話題になっているが、日本と違うのは、それが賃金高騰に直結していることだ。ある女性研究者は、お気に入りのベビーシッター兼お手伝いさんのアフリカ移民に、フルに働けば年収約1000万円に相当する時給を支払っていたが、なんと、あるセレブの家庭からそれよりはるかに高い給与を提示されて引き抜かれてしまったと嘆いていた。

 転職で高給を掴むのが当たり前の米国では、下積みでコツコツというのは確かに割に合わないのかもしれない。

 初任給の大幅な引き上げが話題になっている日本も、実は、下積みという概念が徐々に通用しなくなってきたということだ。

 ところで、2月4日配信の本コラム「トランプ大統領就任後にNYに来て感じたこと 極右の犯罪者は解放され、性的マイノリティが排除される『アメリカではない国』になった」で書いたとおり、米国では、人文科学も含めたアカデミアの世界やさまざまなNGOの活動への政府支援が止められている。USAID(米国際開発局)はその最たる例だが、政府機関の資金援助を受けている幅広い分野の団体も同時に苦境に陥った。

 そこで問題となるのは、直接被害を受けた団体だけでなく、政府と関係を持つあらゆる主体が、トランプ大統領やイーロン・マスク氏に反対の思想を持っていると疑われることを避けようとする効果が生まれていることだ。事実上の言論統制が気づかぬうちに浸透しつつある。生きていくためには、従うしかないのだ。

 バンス副大統領が訪独した際、SNS規制を行うEUに対して、「民主主義を損ねている」と述べた。政府による規制は言論の自由への弾圧だという主張だ。

 実は、アメリカに来てバタバタしていて、前述したトランプ批判の本コラム配信の告知をX(旧ツイッター)に投稿するのが遅れてしまった。配信数日後にXで投稿内容を編集していると、いきなり、編集作業も投稿もできないログアウト状態になってしまった。原因不明で再ログインもできない。米国の「XTeam」という事務局につながったので、対処法を聞くと、私がXのルールに違反した可能性があると告げられ、もう10日以上一切ログインできない状況のままだ。政府による介入ではないが、民間企業だから問題ないということなのか。

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「トランプのアメリカは中国より悪い」