副大統領よりマスク氏の方が「上」
Xのような巨大テックが支配する世界では、実は、政府よりも彼らテック企業の方が力を持っている。Xやフェイスブックが、偽情報拡散のプラットフォームになっているが、それを批判すれば、表現の自由に対する攻撃だと彼らは主張する。
しかし、テック企業が独自のルールを作って、真実を伝えるアカウントを理由不明のまま凍結できるのであれば、彼らビッグテックによる独裁制と同じだ。私を含め一般市民には何ら対抗手段がない。本稿が配信される2月25日の段階で、先週の配信とともにXでこのコラムの配信をお知らせできれば良いのだが。(もし、できない時は、読者の皆さんにぜひ拡散に協力していただきたい)
米国のある研究者がつぶやいた。「中国が悪い、悪いというけど、トランプのアメリカは中国より悪いんじゃないか」
2月の第3月曜日(17日)は、アメリカの数少ない祝日の一つ「大統領の日」だった。正式には、ジョージ・ワシントン大統領の誕生日(2月22日)を祝う日だが、エイブラハム・リンカーン大統領の誕生日(2月22日)も一緒に祝う日になっている(在日米国大使館と領事館ウェブサイト)。ちなみに、同ウェブサイトには、「He brought a new level of honesty and integrity to the White House, living up to his nickname, “Honest Abe.”」と書いてある。「それまでにない水準の公正さと誠実さをホワイトハウスにもたらした」というのだが、トランプ大統領と正反対なのが面白い(ちなみに、「Honest Abe」は、「正直安倍」ではなく、「正直エイブ」なので誤解されないように)。
この日、各地で反トランプの集会が行われた。私がたまたま通ったニュージャージー州郊外の国道沿いの小さな集会では、トランプ氏と並びマスク氏の名前が書かれたプラカードが多かった。「Dump Trump Dump Mask」という具合だ。
バンス副大統領の名前がないのは、マスク氏の方が副大統領よりも力があることを市民がよく理解しているからだろう。
ただし、反トランプキャンペーンは思ったより沈静化しているようだ。
試しに、マンハッタンのトランプタワーに行ってみた。反トランプのプラカードなど皆無。正面のリボルビングドア前には、トランプ氏のマスクを被った男性がポーズをとりながら、観光客と一緒に写真に納まりチップをもらっている。マスクを脱ぐと襟元には、トランプタワーの警備員のバッジが見えた。これもトランプビジネスなのだろうか。
トランプ氏は大統領であると同時に、消費される対象であることがよくわかる場面だ。
消費されるトランプ氏といえば、帰りの機中で、映画「アプレンティス ドナルド・トランプの創り方」を見た。内容の真実性は定かではないが、若き日のドナルド・トランプが、この映画で彼の育ての親とされているロイ・コーンの生き様(哲学)を真似ることで創られていくという話だ。正確な英語は覚えていないが、コーン氏の言う成功の3大原則(常に激しくアタックせよ、間違っても決して非を認めるな、どんな結果でも勝利を主張せよ)を忠実に守ってのし上がっていくトランプ氏というストーリーだが、逆に言うと、米国で成功した資本家や経営者にはそういう考えの人が多いということでもある。