人間は強くなければならないという思想
そうした歪んだ権力構造が現在のトランプ大統領を創っただけではなく、現在の米国の格差と分断を創り出したという解釈もできる。そういう意味では、「病めるアメリカの創り方」というタイトルでも成り立ちそうだ。
もう一つ印象的だったのは、コーン氏もトランプ氏も他の勝ち組の資本家たちも皆揃って、「我々こそが差別され、搾取されている」と主張していたことだ。
アメリカでは、マイノリティとその支持を受けるリベラル政治家たちが、自分たち資本家から金を奪い取り、それをマイノリティにばら撒いているという「逆搾取」の構造を批判している。
貧困は、努力不足や能力不足から生じるもので、資本家にも資本主義にも全く責任はないという考え方。経済への貢献度が低い人間は貧しくても当然で、効率、言い換えれば生産性の低い人に高い報酬を与える方が逆差別だという主張。こうした考えは、社会保障など分配政策の否定につながる。
これと関連して思い起こしたのは、ジャージーシティの街を歩いていて気づいた、フィットネスクラブの数の多さだ。ワンブロックの片側に三つあるのも珍しくない。また、ハドソン川沿いを早朝氷点下10度でも気にせず全速力で走る多くのジョガーたち。なぜそんなにストイックになれるのか。
もしかすると、それは、人間は強くなければならないという思想からくるのではないだろうか。「強さ」が求められ称賛され、「強いことが正義」という考えが根底にある国が米国なのではないか。逆に言えば、「弱いものは同情に値しない」、さらに「弱者は悪」、従って「排除すべき」という考えにつながるのではないか。
それは少し極論に過ぎるとしても、選挙で半数以上の人がトランプ氏の考えを支持したのは、そうした考えがある程度は認められているからなのではないのか。
もちろん、米国には全く異なる考え方の人がたくさんいる。
しかし、今や、マイノリティという言葉すらタブーとなり、トランプ哲学に反論するためのデータの収集や研究には資金が供給されなくなってしまった。
効率主義・能力主義が正しく、分配政策は間違いだと示す研究者は逆に優遇され、そうした言説が世の中に溢れるだろう。国民はさらに洗脳され、トランプ大統領の暴走を止める力は弱まる。
日本に帰国すると、国会では、貧困、格差対策としてさまざまな弱者への助成策が議論されている。トランプ政権とは反対の動きだ。
トランプ=悪なのだとすれば、日本は正しい道を歩んでいるということになりそうだが、とてもそうとは思えない。
「トランプの米国」を見ることは、私たち日本人が進むべき道を考えるうえで貴重な材料を与えてくれそうだ。
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