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「人は何のために生きるのか」。そればかり考えていた当時の自分に対し、元ヤクザという同僚は言った。「西成でそんなこと考えているやつ、ひとりもおらん。みんな死ぬまでの暇つぶししとるだけや」
明日に保険をかけないような生き方は自暴自棄にも映り、自分にはまねできないと思ったが、不思議と「無我の境地というか悟りに近い」ものも感じた。
「生産性を上げる、社会で評価される。そんな今の時代にまかりとおっている価値観に毒され過ぎていた自分を思い知らされた」
スマホやSNSがなくても生きていけることも新鮮で、視野が広がった。西成で暮らしたことで肩の力が抜け、生きやすくなった。1カ月の滞在予定は、気づけば78日間に及んだ。
行き場のない人たちにとって、たしかに釜ケ崎はある意味、楽園だとも感じた。でも、まだやりたいことがある自分がここに居続けることは恐れ多く、その勇気もないと気づいた。
「結局、自分を大切にしちゃっていて、何らかの価値があると思っていることを自覚した」
※【後編】<西成に増えるYouTuber、中国人、ベトナム人……変わりゆく街に彼が「疲れたとき戻りたくなる」理由とは>に続く
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