中居氏は1月23日、自身のファンクラブのサイトで芸能活動を引退すると発表。「今後も、様々な問題に対して真摯に向き合い、誠意をもって対応して参ります」と綴った

人生を変える“文春砲”

 フジテレビのずさんな管理体制や人権意識の低さに問題があることに変わりはないが、トラブルの肝でもある部分の訂正について思うのは雑誌報道のあり方についてだ。中居氏による性加害が事実だとすれば芸能界引退はやむなしだが、文春による報道がその結末まで加速させたのは間違いないところだろう。

 ペン一本で人の人生を大きく変えることができてしまう。同志社女子大学学芸学部メディア創造学科教授の影山貴彦さんは、中居氏をめぐる報道を念頭に「文春をかばうつもりは少しもない」と前置きして言う。

「ネット文化隆盛の時代にあってニュースは一刻を争い、ネットニュースのページビュー、またそのリンクで雑誌部数を稼がないといけません。紙媒体が斜陽な中で、取材に時間をかけるよりも早く出すことが優先される、目先の効果を上げるということに焦点が行ってしまうという側面はあるかもしれません」

 読者のメディアへの触れ方もこうした傾向に拍車をかける。

「これもネットの影響でしょうが、今の読者たちは最初の数行を読んで、全部読んだ気になる。最後まで読まずに見出しだけというケースすらあって、だから大げさにセンセーショナルな見出しをつけて読者の耳目を大々的に集める。それでいて、お詫びや訂正はひっそりと誌面の隅っこに載せる。これはメディアのあり方として十分ではないと思います。人の名誉を左右する訂正であればなおさら、特集記事と同じくらいのボリュームでお詫びを載せるべきでしょう」

 文春砲と世間からもてはやされ、他メディアは文春の報道を追って取材を重ねる。これまで文春砲によって引退や謹慎を余儀なくされた芸能人は数多い。犯罪行為であれば報じるのも罰せられるのも当然だが、今や不倫や密会などいわゆる芸能人のスキャンダルも大ニュースとして扱われ、読者もそれを楽しんでいる。

良くも悪くも文春中心

「清濁いろんな感情を併せ持つのが人間ですから、誰かの隠された生活を覗き見たいという読者のニーズはあるわけです。ただ、ニーズを盾にプライバシーを侵害して人生をぶち壊してしまうとなれば、それは傲慢なのです。社会的使命がゼロとは言わないですが、こうしたやり方は今後の時代、社会を考えても得策ではないはずです」

 テレビも雑誌も文春砲をありがたがり、「おんぶに抱っこ」状態にある。ただ乗りするのではなく、記事を冷静に検証する姿勢が求められていると影山さんは説く。

「活字媒体、電波媒体ともに、良くも悪くも『週刊文春』を中心に回っていますし、私は『週刊文春』という週刊誌に存在意義があると思っています。これだけ社会に対して強烈な発信力があるわけですから」

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