ドナルド・トランプ米大統領(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

もはや「自由の国」ではなくなった

 私は、これを聞いた時に二つのことを思い浮かべた。

 一つ目は、私の知り合いの米国人(白人)男性とアジア人男性のカップルのことだ。昨年その米国人男性が米国白人女性から卵子提供を受けて別の女性に代理出産してもらい、子供が授けられた。

「夜泣きがひどくて大変だ」と言いながら、幸せそうに笑っていた彼の顔が印象的だったが、彼らは、どういう気持ちでトランプ大統領の言葉を聞いたのだろうか。これから相手のアジア人の男性が卵子提供を受けて自分の子供を代理出産してもらう予定だったのだが、これをどうするのだろうかと心配になった。

 元々は、アジアで暮らしていた二人だが、ゲイカップルは結婚できなかったり、さまざまな差別があったりするので、「自由の国」アメリカにやって来た。そんな二人が、トランプ大統領の登場で一転して真っ暗闇の中に投げ出されてしまったのだ。

 大統領就任式で、トランプ大統領のすぐ後ろに顔を見せていたアップルCEOのティム・クック氏は14年にゲイであることを公表している。彼の前で、冒頭の発言をしたトランプ氏の神経を疑う人もいると思うが、彼にはそんなことを気にする必要は全くない。なぜなら、トランプ氏は米国のビッグテック企業に対して完全に優越的地位に立っているからだ。トランプ氏から見れば、「GAFAMなんて取るに足りない、彼らは自分にひざまずいている」というところだろう。クック氏のことを慮るなどという発想はそもそも出てこないわけだ。

 トランプ政権が続く間は、アメリカに LGBTQ(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー、クィア・クエスチョニング)などの性的マイノリティの人たちが移住してくることはほとんどなくなるのではないか。これは、アメリカの発展にとっても大きなマイナスだ。

 トランプ氏の反ジェンダー発言で思い浮かべた二つ目は、夏のプライド・パレードのことだ。プライド・パレードとは、LGBTQに対する差別や偏見に反対し、セクシュアリティやジェンダーの「多様性」を称賛することを目的とするパレード及びそれと併催される各種のイベントを指す。世界中の都市で開催されるが、6月に行われるものが多い。 

 アメリカでは多くの都市で、6月の最終日曜日に行われる。

 私は、昨年、ニューヨークでこのパレード(ニューヨークシティ・プライド・マーチ)を見たが、世界中から多くの人が訪れ大賑わいだった。アメリカの独立記念日7月4日の直前の日曜日ということで、アメリカの夏のお祭り気分がここから一気に盛り上がっていくのだ。

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LGBTQの人々の反トランプ志向