トランプ米大統領が就任直後から連発する常軌を逸した政策が世界を驚かせている。
【写真】「出勤するのが怖い」「手術後の薬をもらえなくなる」 トランプ米大統領就任で米国内に広がる絶望
ほとんど正気を失ったのではないかという政策はいくつもあるが、こうした一つ一つの政策よりも、私が最も恐れているのは、米国社会における「倫理規範の崩壊」である。
トランプ氏自身が、レイプ事件の民事訴訟で性的暴行を認定された「重罪犯」であり、いくつもの刑事事件で係争中だったことは誰もが知っている。そんな政治家が堂々と再び米国のリーダーになるのだから、米国社会の倫理規範はすでに崩壊したという人もいる。
私がさらに恐ろしいと考えたのは、2021年1月6日の連邦議会議事堂襲撃事件の関係で服役していた極右集団のリーダーたちを含め多くの極右、差別主義、陰謀論、暴力主義の犯罪者達が1500人も恩赦で刑務所から解放されることだ。就任からわずか数日で数百人が釈放された。
特に有名なのは、極右団体プラウド・ボーイズのエンリケ・タリオ元代表と極右の民兵組織オース・キーパーズ創設者のスチュワート・ローズ氏だ。彼らは、議事堂襲撃事件に関連し、扇動共謀罪などで、それぞれ、禁錮22年と禁錮18年という非常に重い刑の宣告を受けていた。
この他にも、20年10月にワシントンDCで当時20歳だった黒人男性カロン・ハイルトン・ブラウンさんを死亡させたとして、それぞれ禁錮5年6月、禁錮4年の判決を受けて控訴中の2人の警官にも恩赦が与えられた。BLM(Black Lives Matter)運動でも取り上げられた有名な事件の関係者達だ。
民主主義を根本から否定し、集団暴力で人を殺した人間たちを大統領が自分を支持してくれたからという理由で大量恩赦するということは、今後もトランプ氏を支持する行動であれば罪を犯しても結果的にお咎めなしで済むというメッセージを送ることになり、政治的動機をもった重罪を誘発することにつながる。
大量恩赦と並んで私が気になっていることがもう一つある。
それは、トランプ大統領が、アメリカにはmale and female (男性と女性)しか存在しないとして、ジェンダー政策を全て廃止すると宣言したことだ。
その内容には、連邦レベルでの性別の再定義、政府のコミュニケーションにおけるトランスジェンダー認知の削除、性別を修正した米国パスポートの発行停止、収監されたトランスジェンダー女性の女性刑務所への収容禁止、トランスジェンダー受刑者への性別適合医療の拒否、職場でのトランスフォビア(トランスジェンダーの人々やトランスジェンダー全般に対する否定的な態度、感情、行動)の助長、連邦政府の資金が「ジェンダー・イデオロギーの促進」に使用されることの阻止などが含まれる。