襲撃が心配される「6月29日」のパレード

 今年のニューヨークシティ・プライド・マーチは6月29日に開催されるが、私は、それがどうなるのかとても心配だ。

 なぜなら、前述の釈放された極右過激派の多くは、人種差別、女性蔑視、反LGBTQなどの思想を持っているからだ。プラウド・ボーイズの代表だったタリオ氏は20年のBBCの取材に対して、「我々は反同性愛ではない。誰が誰と寝ようと気にしていない」と答えていたが、その一方で、プラウド・ボーイズはタリオ氏の拘束後にトランスジェンダー活動家らを対象にした抗議行動に重点を置いているというBBCの報道もある。やはり、基本思想が差別主義的なので、性的マイノリティには反感を持っている人が多いのだ。

 今回恩赦を受けた人たちは、トランプ氏の熱狂的支持者だ。

 一方、もともとLGBTQの人々にはリベラル思考の人が多く、トランプ氏が大統領になることには強く反対してきた。したがって、LGBTQの人たちは、反トランプ勢力だと見られがちだ。トランプ大統領は、今回LGBTQを公式に否定したが、これにより、LGBTQの人々の反トランプ志向はさらに強まるはずだ。

 こうした背景を考慮すると、LGBTQの人々が集団で行動しているのを見た極右の暴力主義者たちは、「調子に乗るなよ。アメリカにはお前ら(LGBTQ)の居場所はない。俺たちがお前たちを攻撃して捕まっても最後はトランプ大統領が恩赦してくれる。俺たちには何も怖いものはない」と考えるのではないかと思えてならない。本来は、性的マイノリティへの言葉によるヘイトでさえ犯罪なのだが、これからは、そういった意識はかき消されていくに違いない。

 こうして、LGBTQの人々への暴力的迫害が頻発するのではないか。それがエスカレートすれば、プライド・パレードという機会を捉えて彼らが本格的な襲撃事件を起こすのではないか、ということが心配だ。仮にそんなことが起きれば、悲劇的な大惨事になるかもしれない。

 私は、今、ニューヨークに来ている。寒い街を歩いていると何の変化もないように見えるが、そんなある日、知り合いの研究者からショッキングな話を聞いた。

 それは、今、大学でいろいろな研究費の審査が止まってしまったということだ。トランプ大統領によるジェンダー政策のストップ命令により、研究の内容がジェンダー問題に関わっていないかということが問われるからだという。「多様性」は御法度になったという言い方もできる。

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トランプ大統領がやっている「思想統制」