即戦力として経験積める
「形成外科の4年間の専門研修中、仕事の大半は先輩医師の“助手”です。オペでは皮膚の縫合しか任せてもらえない、顔への手技が解禁されるのは3年目以降といった病院もざらにあるなか、美容クリニックでは1年目から即戦力として経験を積むことができます。また、最近の美容医療はヒアルロン酸注入など局所麻酔で済むような施術が人気です。形成外科で大がかりな手術への対応力を磨いたり、専門医資格をとって“箔”をつけたりする必要性は、あまり感じませんでした」
石田院長の実感として、今や大手美容クリニックが採用する医師の7~8割は直美で、形成外科専門医よりも直美を優先する動きまであるという。
医師免許を持った営業マン
理由の一つは、「形成出身のドクターは切開をしたがる」からだ。実は美容手術は、医師が長時間拘束され、施術リスクも高いわりに単価が低い。二重整形であれば、「切開法」よりも、まぶたを糸で留める「埋没法」を勧める医師のほうが、効率的に利益をあげてくれるのだ。
業界で顧客の奪い合いが繰り広げられていることも、直美需要の一因となっている。石田院長は、「“医師免許を持った営業マン”を育成するためには、売り上げへの意識が低い“勤務医マインド”に毒されていない直美は都合がいいのだろう」とみる。
「美容医療は、どれだけ指名をもらえるかという人気商売の側面が大きい。客を増やすためならクラブでのナンパだって評価される世界で、ドクターの能力は『SNS8割・技術2割』とまで言う人もいます。容姿端麗でインフルエンサーとしてバズりそうな直美医師なら、引く手あまたでしょうね」
保険診療の理不尽
さらには、心臓外科や脳神経外科など様々な外科分野でキャリアを積んだ勤務医たちが美容外科に転向している実態もあるという。その背景として、石田院長は「保険診療ならではの理不尽」を指摘する。
「保険診療では、同じ手術であれば、新人医師でもベテラン医師でも料金は変わりません。ということは、傷口を小さく済ませ、術後の感染リスクを最小限に抑えられる有能な医師ほど、患者を早く退院させてしまい、病院の売り上げを下げることになる。経営的な視点でジレンマを感じる医師であれば、自分の技術に見合った料金をとることができる美容医療に魅力を感じると思います」
だが、美容医療に医師が流れるなか、業界は既に飽和しつつある。