石田院長が自身のSNSで公開している症例写真。最近はヒアルロン酸注入など局所麻酔で済む施術が人気だ

人材流出は止まらない

 東京・銀座では今、美容クリニックが月に2~3院開業する一方、同じ数だけ閉業しているといい、厳しい競争のなかで以前ほどの高収入は望めないのが現実だ。

 石田院長は、それでも美容医療への人材流出は止まらないと考えている。

「激務で知られる勤務医に対し、美容クリニックの医師は基本的に定時で帰れるため、特に出産や子育てを考えている女性には人気がある。私が言うのもおかしな話ですが、美容の医者と保険医の給料が逆になるくらいの大胆な改革をしないと、保険診療は崩壊するのでは?と心配になります」

保険診療の課題

 勤務医出身で、現在は美容医療にも携わる「銀座アイグラッドクリニック」の乾雅人院長(40)は、「病院が適正な報酬や労働環境を整えた“普通の職場”にならなければ、日本の医療に未来はない」と話す。

 乾院長はかつて東京大学医学部付属病院で胸部外科医として働いていた。しかし、医師たちが疲弊している現場に疑問を抱き、医療業界こそプロ経営者が必要だと考えるように。まずは自身がビジネススキルを磨くべく、2020年に同院を開業した。

 保険診療は財源が限られており、物価高に応じた価格調整もできない。勤務医時代は、改善される見込みのない待遇に将来の不安を感じていた。過労で倒れそうになったこともあるという。

「厚生労働省が定める医師の時間外労働の上限は年960時間ですが、研修期間中や地域医療の確保といった条件にあてはまれば、過労死ラインの倍となる年1860時間の残業が認められています。今の医療制度は、『医者は社会のために犠牲になってもやむなし』と言っているようなもの。見切りをつける医師が出てくるのも当然でしょう」(乾院長)

 厚労省は今後、直美に歯止めをかけるための対策を打ち出すとみられている。だが、美容医療への人材流出を規制しても、医師たちの人間らしい働き方が実現しない限り、次のフロンティアを追い求める動きがやむことはないだろう。

(AERA dot.編集部・大谷百合絵)

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