まつおか・しゅんじ/早稲田大学教授。専門は「環境経済・政策学」。災害復興を研究。現地の地元住民や専門家、東電の社員らが対話し、廃炉の将来像を探る「1F地域塾」を主宰
この記事の写真をすべて見る

 国と東電は福島第一原発の「2051年廃炉完了」を掲げるが、計画通りに実現できるのか。環境経済・政策学が専門で、災害復興を研究する早稲田大学の松岡俊二教授に聞いた。AERA 2025年2月3日号より。

【ロードマップ】使用済燃料の取り出し開始~廃止措置終了までの道のりはこちら

*  *  *

 昨年実施された0.7グラムの燃料デブリ取り出しは、本格的な取り出しではなく、取り出す前の準備段階。山登りで言えば、まだ登ってなく、麓で準備体操をしている段階です。まずそのことを理解しておく必要があります。

 廃炉が当初の計画から遅れている背景として、「廃炉ガバナンス(経営管理体制)」に非常に大きな問題があると感じています。

 現在、福島第一原発は「国」、「東電」、政府と原子力事業者による認可法人「原子力損害賠償・廃炉等支援機構(NDF)」が三すくみで互いにもたれ合い、事業者の責任を見えにくくしています。具体的には、国が廃炉の大方針を決め、NDFが年度ごとの「技術戦略プラン」をつくり、これに沿う形で東電が廃炉作業をしています。

「戦略が組織を規定する」という米国の経営史家アルフレッド・チャンドラーの有名な言葉があります。企業が採用する戦略がその組織構造を形づくるという、経営学で最も重要な考えです。しかし廃炉はその最も大事な「技術戦略プラン」を事業者である東電でなく、NDFがつくっています。そのため東電は廃炉を進める覚悟を持てないでいます。

 NDFは、原発事故の迅速な損害賠償などのため2011年に国が設立し、14年から廃炉の技術支援も担い始めました。NDFは資金管理に徹し、廃炉戦略は東電が自分たちでつくるようにし、明確で誰にでも分かる責任関係をつくることが重要です。

 福島第一原発では、燃料デブリが圧力容器の底を突き破り、格納容器に広がっています。私は、22年に福島第一原発の総量約880トンの燃料デブリ取り出しにかかる期間を試算した論文を発表しました。

次のページ
170年でも楽観的な数字