探してみると羊皮紙が販売されていた。さらには作り方がインターネットにあるのを見つけて、道具を手作りして製作を開始。
「自作熱があって、子どもの頃から手作りは大好きなんです。作る過程が楽しいので、失敗も苦になりません。売っていないものに興味があります」
実際の八木さんはとても物静か、思慮深い語り口なのだが、本を読んでいると行動が早い。悪臭に悩まされながらも羊皮紙製作の腕をあげ、内戦が始まる前のシリア、イスラエル、大英博物館、そして羊皮紙の聖地・ペルガモン(トルコ)へと羊皮紙の探究に赴く。平日は一般企業で翻訳者として働きながら。
「普段は山奥で暮らしたいと思っているくらい一人の時間が好きなんですが、旅先では人を訪ねますね。知らない世界を知りたいという気持ちのほうが強いといいますか」
八木さんの研究と技法は磨かれ、やがてペルガモンで開催される国際シンポジウムのオーガナイザーを依頼されるまでに。風呂場で悪臭に悩まされながら、羊皮紙作りに取り組んできた成果だ。
「大学の講義や講演会では、なるべく参加者にも体験してもらうようにしています。皆さんの目の輝きを見ると報われます」
「羊皮紙について知りたい」という八木さんの思いはアジアの西と東を結ぶまでになった。これからはより多くの人と一緒に、冒険はまだまだ続きそうだ。
(ライター・矢内裕子)
※AERA 2025年2月3日号