AERAで連載中の「この人のこの本」では、いま読んでおくべき一冊を取り上げ、そこに込めた思いや舞台裏を著者にインタビュー。
【写真】ひょんなことから羊皮紙に出会い専門家となった、ひとりの青年の奮闘記
中世ヨーロッパの製法に従い日本の風呂場で羊皮紙を作りはじめた著者・八木健治さん。独学で羊皮紙の製法はもちろん、その歴史や文化を探究するあまり、中世写本も集めるようになる。やがてシリアやイスラエルを旅行、大英図書館を訪問し、羊皮紙発祥の地・ペルガモンで認められる世界的専門家になっていく。ひょんなきっかけで羊皮紙に出会い専門家となった、ひとりの青年の奮闘記『羊皮紙をめぐる冒険』。八木さんに同書にかける思いを聞いた。
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「これまで羊皮紙の歴史や文化、製作法を伝える2冊の本を書きました。今回は自分の側からみた風景をできるだけ伝えるために喜びや落胆、匂いなど、生々しい五感についての記憶も書いています」
そう語る八木健治さん(48)は日本における羊皮紙研究の第一人者だ。「羊皮紙」とは動物の皮から毛を剥ぎ取り、平らに伸ばして乾燥させたもの。15世紀半ばにグーテンベルクが活版印刷技術を開発するまで、多くの書物は「羊皮紙に手書き」することで作られていた。ノーベル文学賞で授与される賞状も実は羊皮紙なのだそう。
『羊皮紙をめぐる冒険』はひょんなことから羊皮紙に出会った八木さんが、自宅の風呂場で羊皮紙作りを試みるところから始まる。
「今でこそ羊皮紙を専門にしていますが、歴史好きだったわけではないんです。大学では言語学を専攻し、大学院に進みました。世界には無数の言語がありますが、それぞれが一種の暗号です。でも法則を学べば、記号の羅列が意味を成すようになる。言語は新しい世界を開く鍵です。文字も文化も日本から離れているほうがミステリアスで惹かれます」
2006年、八木さんは絵画的なアラビア文字に惹かれ、アラビア書道講座に入る。
「そこで作品展に参加することになって、せっかくなら羊皮紙に書いてみようかな、と思ったんです」