新年恒例の「歌会始の儀」が1月22日、皇居の宮殿「松の間」であった。今年の題は「夢」で、国内外から寄せられた和歌は1万6000首余り。天皇、皇后両陛下をはじめ皇族方が詠まれた歌も披露された。皇族方の歌の御用掛を務める永田和宏さん(77)は、皇族方の和歌からも、それぞれの人柄がうかがえるという。
* * *
天皇や皇族は、なぜ歌を詠むのか。永田さんによると、天皇が訪れた土地の川や山の名前を詠み込んで和歌を作るのは、その土地の暮らしへの祝福の意味を持つのだという。
かつては天皇や皇族方に加えて、女官や侍従も参加した月次歌会(つきなみのうたかい)も盛んだった。そしてその文化は受け継がれ、今でも宮妃の方々は毎月、和歌を寄せているという。
なかでも、エネルギッシュで、気さくな人柄で人気のある高円宮妃の久子さまは、多忙にもかかわらず、たくさんの和歌を詠まれるという。
久子さまは今回、「夢」というお題に対して、2023年に長女の承子さまと訪れたヨルダンのパレスチナ難民キャンプでの人びととの触れ合いを詠んだ。
ヨルダンの難民キャンプに若きらはこれからの夢を語りをりしが
医者や教師、政治家になりたいと、将来の夢を語っていた若者たちのいまに思いを馳せる内容だ。
永田さんは、「夢を語りをりしが」と結んだ表現が印象に残ったと話す。
「この和歌の優れているところは、結句(けっく)の最後の一字となる『が』にあります。
つまり、2年前に難民キャンプにいた若者たちは将来の夢を語っていたが、一歩を踏み出せただろうか、いまは無事でいるだろうか――。そう心にかける作者の思いが最後の一文字に凝縮されています」