ソフトバンクから日本ハムに移籍して覚醒した田中正義

「伊藤の投球を見ると田中正義と重なる」

 ここまで未勝利だが、環境を変えることで覚醒した投手は過去に何人もいる。代表的なケースが、田中正義(日本ハム)だ。創価大でアマチュア球界№1投手と形容され、ドラフト1位で5球団が競合し、ソフトバンクに入団したが、故障にも泣かされて6年間1軍未勝利。だが、22年オフに日本ハムからFA権を行使してソフトバンク入りした近藤健介の人的補償として日本ハムに移籍すると、新庄剛志監督が守護神に抜擢したことで眠っていた能力が引き出された。23年に25セーブ、8ホールドを挙げると、昨年も20セーブ、12ホールドをマークした。

 ソフトバンク時代に取材したフリーライターは田中の変化を口にする。

「持っていた能力はソフトバンク時代から間違いなく高かったが、1軍で結果を出せないまま年月が過ぎて自分の力を信じ切れていないように感じました。日本ハムに移籍して修羅場を抑えることで顔つきが明らかに変わりました。抑えに抜擢した新庄監督は凄いですよ。失敗しても我慢して起用していましたからね。ソフトバンクに移籍した伊藤も素材は間違いなくいい。投球を見ると田中と重なるんですよね。首脳陣の期待は高いと思います」

巨人の小林(右)。菅野(左)とバッテリーを組むことが多かった

補償の有力候補は小林だったが…

 FA移籍した甲斐の人的補償として、ソフトバンクが獲得する有力候補とささやかれていたのが捕手の小林誠司だった。侍ジャパンでも活躍した実績十分の捕手は巨人で微妙な立場だった。近年出場機会を減らし、菅野が登板する時に起用されていたが、相棒の菅野がメジャー挑戦したことでさらに出場機会が減るとみられていた。甲斐が加わった巨人捕手陣の層の厚さを考えるとプロテクトから外れていた可能性は高かったが、ソフトバンクは甲斐が移籍した後も、現有戦力の捕手陣で戦えると判断したのだろう。正捕手を狙う海野隆司、ベテランの嶺井博希のほかに、谷川原健太、渡辺陸と強打に定評がある若手有望株もいる。

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伊藤が上沢との序列をひっくり返す可能性も