AERA 2025年1月20日号より

 当事者たちのそばには上司の席が二つ設けられ、当事者は二つの班に分けられている。まさに普通のオフィスだ。

「ある程度構造化された環境の中で、報連相(報告・連絡・相談)を繰り返し実践してもらい、上司からフィードバックをもらったり、同じプロジェクトの仲間と自分を比べたり、周囲から助言をもらったり。そういった場にいるというだけで、ご本人の中で変容が生まれやすいと感じています」(足立さん)

 上司役はいわゆるアクティブシニアで、もともとは一般企業で働いていた管理職や経営層の人たちが非常勤職員として日替わりで務めている。一般企業のマネジメントの感覚で指導してもらうことで、当事者を社会に送り出すうえでの訓練につながり、上司からの評価を得て自信をつけることはよくあるという。

診断名でなく特性で

 事業所での訓練期間は、個人差はあるものの平均9カ月ほどで、9割近くが就職する。就職先は当事者が自身で見つけて希望する場合もあれば、同社が提案することもある。そこで生かされるのが、同社が運営する求人サイト「マイナーリーグ」。障害特性への配慮のある企業が200社ほど並ぶ。

「ハローワークなどでの障害者雇用の求人は、まだまだ身体障害の方を対象とするものが多いんです。マイナーリーグには発達障害、精神障害の人を採用して活躍してほしいと考える企業が載っているので選択肢の一つとして考えていただいています」

 Kaienを巣立った当事者たちの就職後半年の定着率は90%を超えるが、中にはうまくいかないケースもある。

 社内の基幹システムにデータ入力をする事務仕事に就いた自閉スペクトラム症のある当事者は、新入社員に対する慣習に困惑したという。客が来社した際に対応するのも新入社員の務めだと上司に命じられ、苦手とする臨機応変な対応が必要な業務がうまくできず、体調を崩すこともあったという。

 企業側の具体的な業務の説明が不足していたり、当事者の自己理解が深まっていなかったりと、ミスマッチの原因は双方にあり得る。こうしたミスマッチを減らすべく、最近では就職前に働く予定の職場での実習を取り入れる企業も増えてきている。

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発達障害に限らず、人は皆でこぼこがあると思う