発達障害の特性から働きづらさを感じ、仕事が続かない人たちがいる。一方でその特性は強みにもなる。働くために支障になっている「壁」は何か、会社側が一緒に考えることが必要だ。AERA 2025年1月20日号より。
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雑居ビルの1階、200平米ほどの開けた一室にデスクが向かい合わせに並べられ、15人の男女が真剣な表情でパソコンのキーボードをたたいている。
一般企業のオフィスと何ら変わらないその部屋は、発達障害のある人たち向けに就労移行支援を行う「Kaien(カイエン)」の事業所だ。関東圏を中心に20超の事業所を構え、利用する当事者は500人ほど。就職を目指して支援し、就職後は就職先の現場の人たちとともに当事者の定着支援も行う。同社就労支援事業部の足立寛子さんは言う。
「見ていただいてわかる通り、発達障害といっても、目の前の課題に向かう姿勢はいわゆる一般的な会社員の人たちと変わりません。皆それぞれが、自身が得意とする、強みとなる課題に取り組んでいます」
評価を得て自信つける
室内では各々が各自のペースで、真剣に目の前の課題に集中して取り組んでいる。
ひとくちに発達障害といっても、特性の種類や表出の仕方は千差万別。Kaienが大事にしているのは、特性をじっくりと観察することだ。集中力が持続しづらいのであれば1時間おきに休憩を挟むなど、個々人に合う方法で支援する。特性を知る手段として面談は用いるものの、そこでの言葉だけを頼りに支援をするわけではない。
「当事者の方がやりたいことと得意なことや安心してできることに乖離があることはままあります。グラデーションはありますが、発達障害の方は客観的に自身を見るのが苦手なことが多いので、仕事でどんなエラーが発生するのか、どんな言動があるのかを就労支援員が観察して、得意なことや不得意なことを伝えるようにしています」
エクセルを用いてのプログラミングやwebサイト制作、事務作業を自動化するソフトによる業務効率化を学ぶなど、当事者が取り組んでいることはさまざま。事業所がプロジェクトを設定し、チームで取り組むこともある。“勤務”は平日午前10時半から午後3時半までで、20代から40代まで年齢も幅広い。大学や大学院卒業時に就職できなかった人や、就職したが辞めた人などが通っている。