「ファストフードを捨て町場の食堂へ」福田和也 心と体が得する話

 「二十一世紀に、私たちが戦うべき最大の敵のひとつは、ファストフードに象徴される文化でしょう」

 と言うのは、文芸評論家の福田和也さんだ。

 「私はなにも、『速く食べる』ことを悪いと言っているのではありません。私自身、立ち食いそばや牛丼は好きですから。そうではなく、大資本の食文化が全世界に一元的に浸透することに、抵抗感がある。ファストフードの侵略が、その町の食文化や景観を壊していく」

 最近、福田さんはイタリアのナポリを訪れ、いたく感激したという。

 「ナポリは人口五百万都市なのにマクドナルドが二軒しかない。それ以外のファァストフードは全くない。見事なもんです。町のピッツェリアやカフェを守ろうとしているんですね。夜になると、中心街のカフェに老若男女が山ほど集まってきて、世間話をしている。町が生きているんです」

 イタリアでは、マクドナルドに出店許可が下りるまで十年近くかかるといわれる。食文化に悪影響を与えると、遠ざけているのだ。町になじまないと、赤と黄色のロゴマークを変更させている都市もある。

 ひるがえって日本はどうだろうか。

 「マクドナルドやスターバックスが、いいマニュアルであることは認めます。全部否定しているわけではない。でも、マニュアル化できないもののほうが大事だという感覚、長い時間をかけてつくられた、精神と文化の結晶でもある町場の食堂を愛するという感覚、この感覚がいつから日本人にはなくなったのでしょうか。こうした退廃を放置したまま、勤労奉仕で子供たちの心を豊かにさせようなんていうのは論外です」

 福田さんは、二人の子供にもファストフードを食べさせないよう育てている。

 さて、食べ物の話をすると、おなかがすいてくる。

 「洋食屋ハンター」の福田さんに、何軒か推薦していただこうとお願いしたが、

 「自分で見つけた町場の店に入るのが基本。地元の大井町、大森、蒲田周辺で『発見した店』は荒らされると困るので」

 「有名だから荒らされる心配もない店」を、五つ紹介してもらった。
 

 ▼「キッチン南海」(神田神保町)
 「同名の店は東京近郊にいくつかあるが、その価格、味、立地条件からナンバーワン。このコストパフォーマンスの良心と食べた充実感が最高。こういう店こそ東京の豊かさと文化を象徴していると思う」

 ▼「たいめいけん」(日本橋)
 「午後にビールを飲むのに使う。一階でボルシチ、キャベツなどを肴にミックス(ハーフ・アンド・ハーフ)の大ジョッキを二杯ひっかけ、ラーメンかぶっかけカレーで仕上げる」

 ▼「みしな」(京都)
 「かつて祇園で知られた名店『グリル壺坂』が閉店後、そのコックさんが開いた。ステーキを食べて、仕上げはお茶漬けとお漬物」

 ▼「王ろじ」(新宿)
 「食感のはっきりしたトンカツ、串カツもいいが、とん汁がいい」

 ▼「牛めしげんき」(新橋)
 「肉を食う文化が西洋から入り、日本に溶け込む過程の香りを伝えている店。以前は『かめちゃぼ』という名前で、『かめ』とは西洋犬、『ちゃぼ』は『ごはん』。要するに『西洋犬の餌』。このネーミングはしゃれていました」

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