作品には登場人物のセリフで「核心めいた表現」がよく出てきます。『多崎つくる』の中で言えば「限定された目的は人生を簡潔にする」とか。多くの人の中でモヤモヤとして言語化はできていないことをシンプルな表現で突き、「なるほど、確かにそうだな」と思わせてくれる。そんなところも魅力です。
10代、20代の若い人にこそ村上作品を読んでほしい。SNSなどで情報が簡単に入る時代。自分と他者を比較して「私にはこれはできない」などネガティブな感情にとらわれてしまう人も多いと思います。そういう悩みから一歩引いて世界への見方を広げてくれる力が、日常の悩みとはまったく違う方向にあなたを運んでいってくれる力が、村上さんの小説にはある。読んで理解できなくてもいい。「何だかよくわからない本」を読むことも必要な経験ではと、自身の体験からも感じています。
(構成/編集部・小長光哲郎)
※AERA 2023年4月17日号