一方の夫は、コロナ禍以降、妻の気持ちが離れていっていることにようやく気付いたのか、就寝中にモゾモゾと体に手を伸ばしてくることが増えた。かと思えば、「俺は男として必要?」と感情的になって責められる。今さら何を言っているの、というのが女性の本音だ。
筆者はこれまで、性の悩みに応じる専門家や、性欲にギャップがある夫婦・カップルに取材をしてきた。共通点として多いと感じるのは、対話の断絶だ。
例えば、結婚30年で、ともに50代の夫婦の場合。
夫の相談は「妻は若い頃は性行為を楽しんでいた。しかし急に拒否をするようになった。認知症が原因ではないか。薬で治らないか」。黙って夫の横に座っていた妻に、後から話を聞くと「若い頃から性行為が嫌い。年齢を重ねるにつれ、その気持ちが強くなり、性行為なんて考えたくもない。夫に触られるだけでゾッとする」と話す。
多産DVに陥ることも
妻50代、夫40代の結婚14年目の夫婦では、妻は夫の行為を「まるでレイプ」と感じていた。子育てと仕事で疲労困憊の日々の中、寝ているところを叩き起こされ乱暴に行為が始まる。夫は妻が積極的に応じないのは「自分が育児を手伝わないから」と考えていて、「妻以外の女性とする気にはなれない。禁欲がつらい。絶望的だ」と主張する。
この夫婦のようなケースでは、妻は望んでいないのに妊娠し、子どもを産む「多産DV」に陥ってしまうこともある。
妻30代、夫40代で結婚10年の夫婦の場合、1人目を出産後、妻は性欲が低下。だが夫は性行為に応じないと暴れて暴言を吐き、手がつけられなくなる。「妻としての義務。病院で診てもらえ」と言われ、婦人科を受診させられたこともあるという。
さらに、頼んでも避妊をしてくれない。子どもは2人だが、実は一度、夫に内緒で中絶している。子どもの進学などを考えると、すぐには離婚はできないが、いつかは、と考えており、これ以上子どもができないよう、密かにピルを飲んでいる。