権力の暴走は極限まで進む
さらに、彼に逆らう者に対しては、持てる権力を100%使って徹底的に潰しにかかる確率も非常に高い。
これらにより、異論を唱えることを抑制する雰囲気ができたり、あるいは、トランプ派と反トランプ派の対立が激化したりして、話し合いによる政策の決定という民主主義に最も重要な要素が成立しなくなることも考えられる。
共和党は、上院に続き、下院の過半数も占めることが確実と報じられた。大統領と上下両院を共和党が支配するいわゆるトリプルレッドが実現したことにより、トランプ氏を止める者がいなくなり、権力の暴走は極限まで進むだろう。
あの戸別訪問を受けた時、民主主義の危機についてもっと話を聞いてハリス氏に投票しておけばよかったと振り返るアメリカ人が将来たくさん出てくるかもしれない。
一方、日本では、トランプ氏とはかなり性格の異なる石破茂氏が自民党総裁、そして首相に選ばれた。トランプ氏に似ていると言われた高市早苗氏が敗北したことで、日本で高市トランプ現象が起きるのはとりあえず阻止された。
しかし、自民党総裁選、衆議院選、そして今日に至る与野党の攻防やマスコミの論調を見ていると、実は日本でも米国と同じような現象が起きているのではないかという気がしてならない。
今、日本では、「103万円の壁」の話から始まり、どうやって国民にお金を配るかという話で持ちきりだ。
一方で、せっかく与党が衆議院で過半数を割ったというのに、例えば、違憲だと言われる集団的自衛権をどうするかという問題は全く話題になっていない。
インフレに実質賃金の減少で、日々の生活のことを考えるのに忙しく、あるいは、目の前にぶら下げられたばらまき政策のニンジンのことで頭がいっぱいで、防衛論議など、全く頭に入らないという国民が圧倒的に多いということだろうか。
これは、アメリカで起きたことと同じように見える。
例えば、立憲民主党は集団的自衛権は違憲だと言っていたが、それを前提にすれば、防衛費の中身を吟味して集団的自衛権を前提にした支出は補正予算で削減すべきだと主張するべきなのに、そんな話は全く出てこない。また、トランプ氏の大統領選勝利を受けて、日本の当面の対米外交をどうしていくのか、あるいは、根本論に立ち返ってどう見直すのかという議論も日本の将来の命運を決する重大な問題であるにもかかわらず、国民の頭の中は素通り状態なのではないだろうか。
このままでは、衆議院で与野党の勢力が逆転したのに、防衛政策は、安倍晋三政権以来の対米追従、中国敵視、外交より軍拡というこれまでの延長線上で進められることになりそうだ。しかも、トランプ大統領就任とともに、米国への従属はさらに強まる可能性が高い。