「今や欧米の現代アート作家は映画の総監督みたいな感じなのです。コンセプトを出し、制作の割り振りを決めてという具合で、巨大なスタジオで流れ作業で制作が行なわれるのです。作家は最終の色校正をして、サインをするという具合です。 今、六本木ヒルズの森美術館でやっている村上隆の五百羅漢図展を、ニューヨークに行く前に見に行ってみてください。そういう制作の割り振りやスケジュールの管理などが展示されていて、どうやって現代アートが工房で作られているのかがよくわかりますよ。ちなみに、村上隆さんもガゴシアンの作家です」

「ヒルズに行って見てきます。でも、どうしてそんなに大量に作らなきゃいけないんですか?」

「そもそもは、前に言ったようにアンディ・ウォーホルが登場して、ヴァルター・ベンヤミンが『複製技術時代の芸術』という本を書いたように、シルクスクリーンのように複製印刷されたものにも価値を生むようにしていって豊かになったアメリカの大衆を市場にしていくところが大量生産の始まりなのですが、冷戦に勝ってアメリカの覇権が確立してアメリカが仕切る現代アートの市場が世界に大きく拡大したことが1つの理由です。グローバルにアメリカの現代アートの市場が拡大した結果、商品が不足してしまったのです」

「なるほど」

「いつも言う話ですが、何事にも需要サイドがあって、供給サイドがあるわけです。アメリカが生み出した現代アートが国際化することによって生まれた需要は、ある意味、供給サイドが生み出した需要です。そもそも、なぜ現代アートに膨大な需要が発生してきたのかは、ニューヨークから帰ってきてから考えることにしましょう」

●狂乱のクリスティーズ

 オークションハウスの最大手のクリスティーズのニューヨーク会場は、高級ブランド店の並ぶ5アベニューと6アベニューの間のロックフェラープラザにある。毎年30mにもおよぶ巨大なクリスマスツリーが設置され、その下には多くの映画に登場しているアイス・スケートリンクが開設される。ニューヨークの冬の風物詩だ。

 クリスティーズの現代アートのオークションは2日にわたって行なわれ、1日目のイブニングセッションでは、目玉商品のオークションが行なわれる。

 絵玲奈は教授に指定された時間にクリスティーズの入口に行った。正面玄関の前に、巨大な蜘蛛の彫刻が置いてあり、その前に教授は立っていた。

「教授、この蜘蛛の彫刻って六本木ヒルズにあるのと同じですよね?」

「そうですね。ルイーズ・ブルジョワさんの代表的な作品ですね。六本木ヒルズの小さいバージョンですね」

「ちなみに、これっていくらぐらいするんでしょうね?」

暮らしとモノ班 for promotion
インナーやTシャツ、普段使いのファッションアイテムが安い!Amazon スマイルSALEでまとめ買いしたいオススメ商品は?
次のページ