「一言で言えば、アートが好きというより、アートがおカネになることがよくわかっている人ということでしょう。アメリカ型の市場メカニズムがアートの世界を席捲した結果、ガゴシアンだけではなく金融業やPR会社、不動産業の出身といったビジネスをよく理解した人が、アート業界に参入するようになっていったわけです」

「アートの世界が、アートの専門家じゃなくて、ビジネスマンの世界になっちゃったわけですね」

「そのとおりです。ある意味、主と従が逆転したと言えるかもしれないですね。アートの本来の精神的価値を大切にする伝統的なギャラリストを駆逐して、どんどん経済的な商品にしていったということでしょう。 本当は、アートの持つ精神的価値と商品としての価値は等価でなければならないはずです。しかしビジネスマンたちは、アートの商品としての価値をどんどん大きくしてビジネスを拡大し、そして産業といってよいものにしていったわけです」

「アート産業というわけですね」

「はい、さきほど言ったように、アートが芸術的な価値から乖離して一人歩きを始め、まるで“色のついた株券”のようになっていくのです。そして現在においては“アート産業”ともいえる発展を遂げていったわけです」

「なるほどです」

「でも、もしそうだとしても、市場メカニズムがちゃんと働くなら、アートが本来持つ精神的価値を、商品としての価値がどこまでも超えていくことはなく、本当は限界があるはずなのです。100万円の精神的価値しかないものが1億円の商品だと言っても、だれも買わないはずだからです」

「でも、アートの精神的価値っていっても、それをおカネに直して評価するのは難しくないですか?」

「そのとおりです。市場で実際に買う人がいれば、その値段を正当な価値としていくしかありません。でも、買っている人が本当に価値があると考えて買っている人ならいいですが、そんなことはどうでもよくて将来も値上がりすることを期待して投機的に買っているだけかもしれません」

「本当の価値がよくわからないふわふわしたものですよね、アートって。そういう意味では、上がればもっと上がるみたいな気持ちになっちゃうかも」

「そういう意味では、ガゴシアンのようなやり手のビジネスマンが流行を創造すれば、アートをどんどん上がる“色のついた株券”にしていくことは難しくない話かもしれません。

 現代アート全体の価値を上げるために、トップを走るアーティストの評価を上げていくことは業界全体の共通の利益です。現代アートのスターで世界的な億万長者でもあるジェフ・クーンズは一種のバロメーターで、彼の評価が危ぶまれたとき、ニューヨークのギャラリー街であるチェルシー地区がパニックになったそうです」

「つまり、ジェフ・クーンズの値段を上げれば、みんな上がるし、下がればみんな下がっちゃうみたいな話ですか?」

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