“席に座っているってことは、こんな私と年の大して変わらない女の子がオークションのお客なんだ……。いったい何者なんだろう。上品な服装からして、お金持ちのお嬢様なんだろうけど……”
「教授。あの若い女の子って何者でしょうね?」
「さぁ、どうでしょう。でもきっと日本人じゃないでしょうね。たぶん中国人のお金持ちの娘さんか何かじゃないですか。中国のおカネは現代アートにすごく流入していますからね」
壇上に競売人が登場し、いよいよオークションが始まった。
「では、作品番号1番。アレクサンダー・カルダーの作品で『レッド クレセント ブルーポスト』です。50万ドルからスタートします」
壇上に電話でオークションに参加するテレホン・ビッドを受けるクリスティーズの営業マンが並び、一斉に手が挙がった。
「60万、70万。80万、90万、100万、110万」
10万ドル刻みであっという間に値上がりしていく。電話でビッドを受ける、一斉に挙がっていた手が徐々に降りていき、2人の買い手の競り合いとなった。
「190万ドル。どうですか。もう一声。トライ!」
競売人が壇上で場を仕切る姿はじつに面白い。競りが足踏み状態になると明るく会場を盛り上げ、再び値を上げさせる。
「200万!」
受話器を持つ営業マンが叫ぶ。
「200万どうですか?他にいらっしゃいませんか?では1番のアレクサンダー・カルダーは200万ドルで落札です!」
競売人は小さな木槌を叩き、一番目の入札を終えた。
絵玲奈は10万ドル刻みでぽんぽんと値段が上がる様に驚いた。1000万円以上の刻みがまるで1000円ぐらいの勢いで上がっていく。
「教授……すごいですね。1000万円がひと刻みだなんて……」
「そうですね。でも、もっと高額なものだと、100万ドル単位ですよ」
「まじですか……」
オークションはどんどん進んでいく。1000万単位のおカネが一単位で動く中にいると、金銭感覚がどんどんおかしくなっていく。
「15番。ルーチョ・フォンタナは2590万ドルで落札です!」
電光掲示板には、ドル、ユーロ、ポンド、スイスフラン、円などの主要通貨での価格が同時に表示される。31億8570万円……。
「教授、なんだかだんだん疲れてきました……」
「そうですね。そろそろ出ましょうか。立っているのもいいかげん疲れますしね」
「いかがでしたか」
オークション会場から出て、教授は絵玲奈に尋ねた。
「……見たこともない世界で、ホントびっくりです」
「いろいろと考えたことをまとめておいてください。日本に帰ってから、議論を整理していきましょう」