「さあ、どうでしょう。ヒルズの蜘蛛が30億円ぐらいらしいですから、10億円ぐらいはしそうですね」
「これが10億円……」
絵玲奈は驚愕した。
「これもオークションにかけられるのですか?」
「たぶんそうでしょう」
こんな大きな彫刻を買って、いったいどんなところに置くんだろう……。
中に入ると、ものすごい人混みだ。着飾った人も多くセレブの社交会場のような状況で、シャンパンやカクテルを運ぶボーイが行き交い、人々が談笑している。
「シャンパン?」
ボーイが絵玲奈に話しかけてきた。絵玲奈はおずおずとシャンパングラスを手にとった。絵玲奈はものすごく場違いなところにいる自分を感じた。
「我々はこっちですよ」
教授は多くの人が入っていく入口と違う入口を指さした。
「すいませんね。我々は、オークションのお客じゃないし見学させてもらう立場なので、座れないんですよ。立ち見でがまんしてください」
「いえいえ。とんでもない」
オークションの会場は、数百人は優に座れる大きさだ。天井からモビールがいくつもぶら下がっているのが見えた。
「あのモビールはなんですか?」
「あれは、アレクサンダー・カルダーですね。芸術作品としてのモビールの創始者です」
「え~、あれもオークションに出る作品なんですか?ちなみにあれっていくらぐらいするんですか?」
「う~ん、どうでしょうね……」
と言って、教授はオークションのカタログのページを繰った。そこには出展作品とオークションハウスの落札価格の予想が出ている。
「これによると400万ドルってなってますね」
「は?4億円以上ってことですか?」
モビールと言えばベビーベッドの上につるされているものしか知らない絵玲奈は驚愕した。
「カルダーのモビールは動く抽象画なんですよ」
会場の席が埋まり始めた。絵玲奈は、目の前の席に東洋系の自分とほとんど年の変わらない女の子が座っているのを見つけた。