「新人の才能のある作家を発掘して育てて、プロデュースするのがギャラリーです。プライマリーとも呼ばれます。 アート作品というものは、そもそも矛盾した存在です。それは、アート作品が精神的なものであると同時に経済的な商品でもあるからです。作家がアート作品を売らなければ純粋に精神的な物のままです。ギャラリーはアート作品に最初の経済的な価値付け、つまり値付けをして商品にして世に送り出します。そして、商品価値が上がるようにさまざまなキャンペーンをして、作家をプロデュースしていくわけです。 つまり、アート作品を精神的なものだけでなく、経済的な価値を持つ商品にする生みの親みたいな存在です」

「そのなかでガゴシアン・ギャラリーはどういう存在なんですか?」

「ガゴシアン・ギャラリーは現代アートにおいて最大規模を誇るギャラリーで、アートの世界でかつてないような帝国を築いています。

 さきほど、現代アートがアメリカの覇権とつながっていることをお話ししましたよね。1989年に冷戦構造が崩壊して、アメリカの覇権が文字どおり確立しました。その結果、世界は1つになり、グローバリゼーションが本格化しました。グローバリゼーションにおいて、アメリカのルールが世界のスタンダードである、グローバル・スタンダードが確立していきます。アートの世界もグローバル化して、アメリカ型の市場メカニズムが世界を席巻していき、ニューヨークがパリに取って代わるのです。この流れに乗って現代アートの世界で大成功した1人が、ガゴシアン・ギャラリーのオーナーのラリー・ガゴシアンです」

「ラリー・ガゴシアンさんってどんな人なんですか?」

「すごいビジネスマンという評判ですね。神秘的で謎めいていて、話し相手を笑いもせずにじっと見つめるそうです。ニューヨークの批評家にサメと呼ばれて、同業のサーチ・ギャラリーのオーナーのチャールズ・サーチには、“ガゴシアンに近づくと、いつも人食いザメの映画『ジョーズ』のテーマ音楽が聴こえてくる”とずばり言われています」

「え~、チャールズ・サーチも、PR会社出身で、ダミアン・ハーストみたいな人をプロデュースしたすごいやり手だって言ってましたよね」

「そうですね。そういうやり手の人をもってしてもということでしょうね。実際、チャールズ・サーチが発掘したダミアン・ハーストはガゴシアンに引き抜かれて移籍しちゃいましたしね。ジェフ・クーンズもそうですが、ガゴシアンが他のギャラリーの作家を引き抜くことはよくあることのようですね」

「なるほど~、まさに人食いザメですね」

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