矢口太一さん(撮影/朝日新聞出版写真部映像部・和仁貢介)
矢口太一さん(撮影/朝日新聞出版写真部映像部・和仁貢介)

 ふるさと三重にいた頃の僕にとって一番足りなかったこと、それは真似ができる先輩や仲間が身近にいなかったことだ。今の自分とあまりに遠い、既に「成功者」になった大人ではなくて、少し手を伸ばせば届くかもしれない、そんな身近な目標だ。もし、あの頃の僕を勇気づけ、真似ができる何かを届けられるとしたら、どこかの「成功者」ではなくて、何者でもないスタートラインに立ったばかりの今の僕なんじゃないのか。

 たくさんのご批判とお叱りを受けることも覚悟している。正直怖い。「調子に乗るな!」「偽善だ!」、そんな声が聞こえてくる。でも、あの頃の自分にこう言われる気がした。

「どうやったらそうなれるん? 僕にもできるん? 本当のこと教えてよ。自慢とかいいから。どうやってやったん? 僕はどうしたらええん? 僕、全然わからへんのや…」

 周りに「お手本」は1人もいない中、僕はずっと、ずっと考えていた。

「どうしたらええん? 誰も教えてくれへん」

 必死に自分の道を拓くために、ずっと、ずっと考えていた。

 そうだ。

 そのときの僕は、ありのままの挑戦のストーリーが知りたかったんだ。ちゃんと自分で実感できる、その場の空気が、温度や湿度が伝わるような、自分と地続きの、そんなストーリーが知りたかったんだ。ビジネス書にあるような、既に「成功者」になった手の届かない人の話じゃなくて、「未来の自分」として思い描くことができる、そんなストーリーだ。

 この本で、勇気を出して挑戦したこと、失敗したこと、困ったことを書いていきたい。人には言えないような恥ずかしい失敗も隠すことなく、ありのままに書こうと思う。

 スタートラインに立ったばかりの僕が「本を書く」ことに意味があるとすれば、そんな等身大の偽りのないこれまでを、誰かが参考にできるケーススタディの一つとして、かつての僕のような人たちに届けることだと思う。

 この本のストーリーは再現性のある話ばかりではないし、たくさんの幸運に恵まれた結果のものだ。あくまで、ある時期に、ある地域で、矢口太一という人間を通して起こった結果でしかない。

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