矢口太一さん(撮影/朝日新聞出版写真部映像部・和仁貢介)
矢口太一さん(撮影/朝日新聞出版写真部映像部・和仁貢介)
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「『お金ならなんとかなる』と人は言うけれど、『何とかしてくれる人』はほとんどいない」

 東大に合格し三重から上京するも「仕送りナシ」。大学が一括窓口となる奨学金は、一時金30万円のみ……。今では東大大学院に在籍しながら大手上場企業で業績を上げ、活躍の場を他社にも広げた25歳の矢口太一さんだが、お金のない状況でどうやって卒業し、どんな想いを秘めていたのか?

 矢口さん初の著書『この不平等な世界で、スタートラインに立つために』から、冒頭部分を抜粋し掲載する。

*  *  *
「本を書きませんか?」

 ネットニュースに、ゲオホールディングスの「セカンドストリート」事業での「売り上げ・買い取りモデルの活用」などの取り組みが掲載された数日後、出版社から連絡があった。

 僕自身、幼い頃から本が大好きだったし、いつかは本を書きたいと思っていた。でもそれは「いつか」の話だ。編集者の方と話してから2か月近く、何を書いたらいいのか、そもそも書くべきなのか、答えを出せずにいた。

「早すぎない? もう少し後のほうがいいのでは?」

 そんな言葉をかけられると、今回ばかりは僕もそう思う。まだ、何も成し遂げちゃいない。「たいしたこともないくせに生意気な!」そんなコメントがSNSでたくさん寄せられるであろうことは容易に想像できた。

 ただ、これまでもメディア取材などを受ける中で、僕自身の辿ってきた道が、思っているよりも多くの人に元気を与えていることも知っていた。記事を見て進路が変わった、と連絡をもらうことも少なくなかった。

 成功者の「自伝」は書店に多く並んでいる。僕も何冊も読んできた。ただ、どれを読んでも、生まれながらに成功が約束されたかのような「きれいなストーリー」が多い、と思う。人生を切り拓くための確固たる人生戦略があったり、普通では考えられないような稀有な才能があったり、要は「普通の人じゃない」ストーリーだ。そこにある失敗談も「きれいな失敗」ばかりで、あまり共感できない。どんな「自伝」を読んでも、憧れはするけれど、自分がそうなれるなんて、とても思えない。読み終えて思うことは「あなただからできるんでしょ」。少なくとも、僕にとってはそうだった。

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