全国各地のそれぞれの職場にいる、優れた技能やノウハウを持つ人が登場する連載「職場の神様」。様々な分野で活躍する人たちの神業と仕事の極意を紹介する。AERA2024年11月4日号には一般社団法人 クール・アース CEO 橋本健二さんが登場した。
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2023年、二酸化炭素(CO2)排出量を取引する新しい市場として、東京証券取引所はカーボン・クレジット市場を開設。企業が出した二酸化炭素の量に応じて課される炭素税の本格導入が控える中、投資先として注目されているのが、早成桐(そうせいきり)だ。
スギに比べ、CO2の吸収率は3倍で、育つ速度は4倍。たった5年間で、高さ15メートルまで成長する。早成桐を24本植えた場合、1年間で約1トンのCO2を吸収する。
植物とは真逆の電子機器関連が専門だった。1986年に家業を継ぎ、カーナビ製造、IT情報通信、人材派遣、物流といったグループ会社を五つ経営。経営者として、トラックの走行距離を減らす工夫でCO2削減に貢献するなど、環境問題対策を真剣に考えていた。
運命を変えたのは08年、北海道旅行中の早成桐との出会いだった。
1本でかなりの量のCO2を吸収する早成桐が集合体になれば地球環境を変えていくのではと、直感的に可能性を感じた。まずは自分の土地に植林し、独自に肥料、管理方法、苗づくりの研究を始めた。
3年後、福島で原発事故が起こる。風評被害で増え続ける耕作放棄地に、早成桐を植林すれば、農家が木材として売って収入に繋げられると考え、環境・植林事業に特化することを決断。
しかし、苦悩の数年間が続く。いくら良い活動でも、ビジネスモデルが確立されていなければ、人に響かないことを痛感した。
5年後、事態は好転する。成長した桐を建築基準法に基づいて調査したところ、耐熱性、防音効果、調湿効果に優れた素晴らしい建築資材ということが判明した。ガス会社や電力会社、自治体が地方創生事業として採用。さらに、桐の端材は活性炭の原料になると分かり、様々な企業と工業商品開発が加速した。ギター、スピーカー、サウナなども作ってみたところ、桐の思いがけない効果が得られ、注文が殺到している。
日本女子大学と早稲田大学理工学術院の研究グループが、空気中のマイクロプラスチックを森林が吸収することを実証。その担い手としても早成桐が注目されている。「脱炭素化の推進、荒廃農地の再生、雇用の創出で日本中を元気にしていきたい」と語る。(ライター・米澤伸子)
※AERA 2024年11月4日号