和気あいあいと手品の練習をするメンバーたち(撮影/國府田英之)

上から目線や人の話を聞かない人はダメ

 手品をやった経験はない。というより、手品をするなんて想像したこともなかった。人前に立って、芸をした経験もない。だが、思い切って参加してみると、その面白さにハマってしまった。

「これは楽しいなあってね。現役時代も、仕事を理屈で考えるのが好きだったんだけど、手品のタネも、ちゃんと理屈が通っていて、なるほどって思わされるんですよ」

 加入からわずか3カ月で踏んだ初舞台では、人生で味わったことのない緊張感に襲われた。お客さんに目線を送りながら喜ばせたいのだが、手元ばっかり見てしまったという。

「終わって緊張が解けて、ホッとして。でも、お客さんが失敗も楽しそうに笑ってくれるのって、すごくいいなって感じたんですよ。やっぱり、いろいろな人生経験を積んだ人たちの、あったかい反応がね」(佐藤さん)

 人生の大先輩たちに、ひとつ、疑問をぶつけてみた。

 どうして、仲良くなれたのですか?

 率直に聞いてみると、渡辺さんはこう話した。

「80歳になっても、まだ昔の仕事の肩書を言いたがる人がいるけど、僕らはそういうことは一切しないんですよ。手品が楽しい、もっとうまくなりたい。それだけですから」

 巷間言われる「昔は〇〇社の部長で~」なんて自慢げな話はやはり、定年後の人間関係づくりにはご法度のようだ。他のメンバーも渡辺さんと同意見で、「みんなが自分の意思で来る場所ですから、『俺が顔だ』というような上から目線や、人の話を聞かなかったり場を仕切ろうとしたりする人はダメですよね」と中澤さんも話す。

 佐藤さんによれば、メンバーの関係性は「若い時の友人とは違って、気遣いをし合いながらの友達関係」なんだそう。

 例えば先生役の馬場さんは、「できる人に合わせない」ことを意識している。

 それぞれができることから始めて、飽きないように少しずつ難度を上げ、さらに、見栄えがよく、楽しめる手品を選ぶ工夫をしているのだという。その気遣いを、他のメンバーたちも「ちゃんと考えてくれている」と感じ取るのだ。

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本当にいい仲間と出会えた