「てじなーず」のメンバー。右から、中澤宏文さん、渡辺淳三さん、佐藤基行さん(撮影/國府田英之)

年の差があっても「ほぼタメ口」

 別のサロンで顔見知りだったメンバーもいれば、「てじなーず」で初めて会った同士もいる。

 月一回、全体で集まる練習で馬場さんから手ほどきを受けるほか、メンバー同士で声をかけあって自主練習にも励み、福祉施設などでのイベントに備えるという。

 未経験者への敷居を低くするため、手品の道具にはなるべくお金をかけない。100円ショップで材料を買ったり、自作した道具も使う。

「部屋が手品の道具だらけになっちゃったよ」と渡辺さんがげらげら笑えば、佐藤さんも「素人なのに無鉄砲と言うか、自分でもよくやってるなって思うよなあ」と笑い返す。

 最年長と最年少は一回り違うが、その会話はほとんど「ため口」に近く、長年の友人のような雰囲気だ。筆者にもうれしそうに手品を披露してくるし、とにかく楽しそうだ。

 だが、ここにいる全員が、もともと人付き合いに積極的だったわけではない。

 佐藤さんは、どちらかと言えばそうではなかった一人だ。

 会社を定年退職後、資格を生かし独立して仕事をしていた佐藤さんだが、2018年、74歳の時に前立腺がんが見つかった。

「医師から(余命は)3年から5年くらいと言われて、さすがにショックを受けました。仕事も辞めてね。いつも病気のことが頭から離れなくて、抗がん剤の副作用もつらくて、ウジウジした気持ちで過ごしていました」と振り返る。

 妻と二人暮らし。たまに外に散歩に出る程度で、人付き合いはなかった。遺言書も作り、「その時」に備える日々を送った

 ところが――。

 体調に問題がないまま、5年の歳月が経過したのだ。気付けば80歳が近い。

「なんだよ、5年経っちゃったじゃないかって。病気のことなんて気にしなくてよかったじゃないか、仕事も辞めて損しちゃった。どうせ余った人生だ、あと何年あるかわからないのだから、何かに使おうと思ったんですよ」

 と、その当時を振り返る。

 そんな時、あるきっかけで、足立区社会福祉協議会の職員に勧められたのが「てじなーず」だった。

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