さらにここに来て綻びが明らかになったアベノミクスが、石破政権のアキレス腱となっている。輸出を促すためにゼロ金利政策で円安を誘導してきたはずが、輸入価格の高騰を招き、国民の生活を圧迫しているからだ。しかもアベノミクスが成功するための鍵であった「トリクルダウン」はついに実現することなく、豊かな日本の象徴だった「分厚い中間層」は無残にもやせ細り、国民の格差は拡大するばかりとなっている。

 そうした不満が噴出するきっかけとなったのは、22年7月8日の暗殺で、安倍元首相を失ったことではなかったか。これまで安倍元首相を支持していた層も求心力を失い、分裂していった。もっともそうした層を繋ぎとめるべく、岸田前首相は防衛増税を決断し、防衛装備移転三原則の見直しにも手を付けるなど、宏池会の“リベラル色”を薄めることに尽力した。にもかかわらず、その効果はいまいちで、岸田前首相はとうとう8月14日に総裁選不出馬を表明した。

救世主のはずが墓堀人?

 こうした経緯を踏まえるなら、石破首相が「やるべきこと」は明らかだった。安倍元首相が残した岩盤支持層を繋ぎとめる一方で、安倍政権時に見捨てられた人たちを救うことだ。新しい自民党をつくるため、まず何をやることが重要か。未曾有の人口減・少子化に対処するために、いったい何が必要か。12年の総裁選で惜敗して以来、10年以上にわたる臥薪嘗胆時代は、これらを考える時間として十分だったはずだ。

 にもかかわらず、石破首相は総裁選で金融資産課税強化や法人税増税の可能性を口にした。これではいまだ財務省の代弁者のような立憲民主党の野田佳彦代表と大差なく、総裁選で勝利した瞬間に株価が大暴落するのは当然だ。

 すなわち国民が抱いていた「筋を通す」「正論を吐く」といった石破首相のイメージが、総理総裁になったとたんに崩れてしまったのだ。そして自民党のグダグダ振りも直せず、「かつての日本はもっと思いやる社会でした」(10月4日の所信表明)と、「過去の幻想」に頼るばかりになっている。

「救世主のはずが墓掘人だった」というのはよくある話だ。石破首相はいったいいくつの墓を掘ることになるのか。

(政治ジャーナリスト・安積明子)

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