野水:とにかくうちの生徒はそれなりに個性が強いので、相手を論破してリーダーとして動こうとする子も多くて、なかなか議論を導くファシリテーターになろう、という発想はない。なので、鴻上さんの本は非常に新しいセンスを教えてくれるなと感じました。
鴻上:それは嬉しいですね。将来日本の中枢に入る人が多いだろうから、そのときに引っ張ろうと思うんじゃなくて、ファシリテートをするっていう発想を持ってくれたらいいですよね。
塚本:部活や自分の進路にモヤモヤ悩んでいる子もいて、救われた、自分の人生に役立った、と書いている子も多かったです。
鴻上:でもこういうのって、先生に提出するものだから、先生の気持ちもおもんぱかって「役に立った」って書きがちになりません?
塚本:1学期の授業を通して、素直な感想を書く下地ができていたと思うので、生徒たちは本音を書いていると思います。今回も字数などは設定しませんでした。そもそも私自身が読書感想文が嫌いなので(笑)。
鴻上:なるほど。僕なんか良くも悪くも聡い子だったんで、とにかく先生を喜ばそうとする作文を書いていたなあ。
ルッキズム・スマホ
鴻上:開成の子たちはそこまで反応していなかったようですが、「ルッキズム」の章は特に女子に伝えたかったことです。外見で人を判断し、容姿によって人を差別する「ルッキズム」が日本はとても強く、生きにくさにつながっています。それを逆手にとって大人が「コンプレックス・ビジネス」を展開しているのが汚い。だから、それに対して、基本は身構えるっていうか、気をつけてっていうことは伝えたかったことです。
塚本:スマホのマイナス面として、鴻上さんも本でおっしゃっていたように、広告が追いかけ続ける、という点がありますが、生徒の中にはそれは企業の戦略だから仕方ない、という意見もありました。
鴻上:今の子たちって体制に対して許容度が大きいというか、文句は言わないですね。そもそも最近の若者は「そんなことしていいんですか?」ってよく聞くんですよ。例えば、演劇でもスタッフが演技の小道具で釣りざおを買ってきて役者に渡し、それで演技していたんだけど釣りざおが長い。じゃあ、ちょっと切ろうか、って僕が言ったら「そんなことしていいんですか?」とか、地方の劇場だと舞台裏が広いので小道具を広く置こう、って言ったら「そんなことしていいんですか?」と。要は決められた枠組みの中ではきっちりやることはすごく考えるんだけど、枠組みそのものを疑うっていう訓練を受けてないんです。だからさっきのスマホも、広告が追いかけてくる中でどうするかっていうことはすごく考えるけれど、広告が追いかけてくる枠組み自体に対する問いかけはあまりないっていうのはすごく感じます。