JX通信社 衛藤健さん(26)(写真:本人提供)

 衛藤さん自身、マスコミ業界に興味はあったものの、結局大手マスコミは就職の選択肢に入れなかった。その理由はこうだ。

「自分がやりたいことをやるには大手マスコミは組織が大きすぎると考えました」

 現在所属するJX通信社は、AIやビッグデータを活用し、報道向けのデータ収集を行うベンチャー企業。衛藤さんは都民ファーストが躍進した17年の都議選で、JX 通信社の情勢予測が的中したのを機に同社に興味を抱き、東京大学3年生のときにインターンに応募。同大学院進学後、21年1月に入社し、データアナリストとしてのスキルを磨いてきた。

 同社に年功序列はない。入社1年目で情勢調査事業責任者に抜擢された衛藤さんは、データアナリストとして全国各地のメディアと合同で選挙の情勢調査を立て続けに実施し、注目を浴びてきた。22年には執行役員に就いた。

 衛藤さんにとってこのルートは、最短で「やりたいこと」にアプローチできる会社を、あくまで「ファーストステップ」として選択した結果なのだ。

「今の会社を選んだのは、一つの企業にずっといることはないという前提で、その先を見据えていろんなステップや方向性があり得ると考えた時に、今、何を得ておくべきなのかという観点から導いた結果です。そういう点では、コンサル業界に就職した人たちと根本的な考え方や判断基準は変わらないのかな、と思っています」

 衛藤さんは、会社から与えられるポジションや業務内容に「依存しすぎない」ことも普段から意識しているという。必要とされる居場所が「今、ここに」あるからといって、それに安住しないストイックな姿勢はまさに、ジョブ型雇用におけるリスク回避戦略であり、「新たな安定」を模索するビジネスエリートの先駆者のようでもある。

 将来、日本を離れるという選択肢もあるのだろうか。この質問に衛藤さんはこう答えた。

「十分有力な選択肢だと思っています。高すぎる社会保険料や硬直的な制度を見ていると、何も変わらない気がしてきますね。自分が出ていくしか解決方法はないのかなと思わされます」

これが今どきの東大生の多くが共有している感覚だとすれば、それこそが日本社会にとって深刻なリスクと捉えるべきだろう。

(編集部・渡辺豪)

AERA 2024年10月21日号より抜粋

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