「裏金議員落選運動」の動きも

 前述の「報道1930」によると、総裁選の候補者が公式YouTubeチャンネルに8月19日~9月14日に投稿した動画の総再生回数では、高市氏が381万回超で、2位小泉氏77万回弱の約5倍、石破氏25万回超の約15倍だった。

 今回は、文書の郵送が禁止されたことを考えると、高市陣営の広報戦略は、他陣営を遥かに超える効果を上げたと言って良いだろう。

 これは、他の候補には真似ができない手法だった。高市陣営には、ネット上で極めて迅速かつ活発に活動するいわゆるネトウヨ層の強力なサポートという強みがあったが、他の陣営にはそれがなかったからだ。その上に、やや特殊な仕掛けも使って、動画の拡散力を高めたという情報もある。

 ある候補者は私とのやりとりの中で、彼女の手法を、「ワイマール体制下でナチスが政権を握った時」になぞらえていたが、実は、これが、今日本で起きている非常に危険な構造的な変化なのだ。

 自民党の右翼政治家は、日本会議などの岩盤右翼層、ネトウヨ層などの支持を得て、当初は馬鹿にされ無視されていた勢力から、国政に影響を与える一大勢力にのし上がってきた。これをまとめあげたのは安倍晋三元首相が残した自民党の遺産である。

 それでも、安倍氏は憲法改正を強行できず、原発新増設も決められず、防衛費のGDP比2%への拡大も決めきれなかった。それをやると国民一般の広い支持を失う恐れがあったからだ。

 もちろん、安倍氏が残した右翼層の固い結束と右翼政治家への支持は貴重な遺産ではあるが、彼らが本当に国家社会主義あるいは独裁主義、権威主義的な政府を樹立するためには、一般庶民の無党派層、中間層の強い支持を得ることが課題だ。

 安倍氏とやや異なり、高市氏のように高らかに右翼的主張を唱えたまま、これを達成するのは難しい。

 しかし、高市氏は、総裁選の前にわざわざ目立つ形で靖国参拝を強行したように、自己の主張を強烈に前面に出してそれをテレビのニュースに流す一方、ネットのショート動画という別のツールを使って、無党派層や中間層を取り込むことに成功した。

 つまり、安倍氏が残した岩盤右翼層の活動がうちわで盛り上がるのにとどまらず、中間層・無党派層を取り込む「マシン」にまで進化したのだ。

 この動きを放置するとどうなるのか。

 仮に高市氏が首相になれば、その権力を自由に使い、リアルの世界で、軍国主義国家への道を邁進すると同時に、国債を無制限に発行して、庶民を喜ばせる露骨なばら撒き政策などで無党派層や中間層の歓心を買うだろう。同時に、ネット上ではネトウヨ層に一般大衆受けする動画などの材料を提供して、中間層を含め幅広い支持を獲得するはずだ。

 気付かぬうちに高市早苗帝国ができるかもしれない。そう簡単に話が進むかどうかはわからないが、それを想像すると思わず身の毛がよだつ。

 今のところ、総選挙の結果は見通しにくい。その一因として、岩盤右翼層の動きが読みにくいことがある。

 ネットを見ると、裏金議員叩き、いわば「裏金議員落選運動」とも言える動きが活発なように見える。

 他方、これとは逆に、右翼層が、石破氏に投票した(であろう)議員の名前をあげて、落選させろという「裏切り議員落選運動」も広がりつつある。

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