平野啓一郎(ひらの・けいいちろう)/小説家。1975年愛知県生まれ、北九州市出身。1999年、京都大学法学部在学中に文芸誌「新潮」に投稿した『日蝕』により第120回芥川賞を受賞。以後、一作毎に変化する多彩なスタイルで、数々の作品を発表し、各国で翻訳紹介されている。(撮影/品田裕美)

小説も多くの人に伝えることを真剣に考えないといけない

――『マチネの終わりに』『ある男』『本心』の3作は映画化され、小説も多くの読者を獲得しました。幅広い読者に届けることも意図していたのでしょうか。

 第三期のころから、文学好きな人だけではなく、その外側にいる人にも読まれなくてはいけないなと思うようになったんです。「人間はいかに生きるべきか」「死とは何か」など、大きく言えば全人類に関係があるものを書いているのに、純文学好きな人たちだけしか読んでくれないというのはどうなのかなと。もう一つ、政治や社会問題など実践的な活動をしている人たちとの関わりも影響していると思います。彼らは「マイノリティーの問題は、そのままにしておくと社会から無視される。いかにマスの人たちに伝えるかが大事」という意識が非常に強いのですが、それは小説も同じじゃないかなと。ただ「多くの人に読まれたい」という話をすると、マーケティング的な発想だと捉えられて「純粋じゃない」と見られがちなんです。文学は己の表現をするのが本筋で、売れたいとか読まれたいというのは不純だと。でも「自分の書いているものは重要な問題を扱っている」と信じるのであれば、多くの人に伝えることを真剣に考えないといけないですよね。

――『空白を満たしなさい』(2012年)をマンガ雑誌「モーニング』で連載したのも、幅広い読者に伝えるための取り組みだった?

 そうですね。声をかけてくれた編集者に「『モーニング』の読者には会社員も多い。それなりに社会問題にも関心があるはずなので、まずはそういう人たちにアプローチするのはどうか」と言われ、それは一理あるなと。「モーニング』での連載は、とても勉強になりました。連載の1回分は原稿用紙で15枚から20枚くらいだったんですが、その長さが、長篇の各場面の長さとしてはちょうどいいんだなとわかり、今でも長篇小説を書くときに、一つの章を20枚くらいに収めるようにしているんです。そういった試みがうまくいきはじめたのは第四期になってからですね。

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