【神話のふるさとを走る】JR木次線 宍道~備後落合/中国山地を越え山陰と山陽を結ぶ。秋は紅葉が見事で、途中には、松本清張の小説『砂の器』にも登場する亀嵩(かめだけ)駅もある(写真:木次線利活用推進協議会提供)

冬が来る前の楽しみ

 最後に挙げる「JR木次(きすき)線」も、そんな鉄道。宍道(島根県松江市)~備後落合(広島県庄原市)間、約82キロ。神話のふるさとを走るローカル線だ。

 木次線と言えば、出雲坂根駅(島根県奥出雲町)と三井野原(みいのはら)駅(同)間の「3段式スイッチバック」が有名。両駅間は直線距離で約1キロだが、高低差は162メートル。この急勾配を列車は「Z字形」に方向転換しながら上る。全国的に珍しく、JR西日本ではここだけ。

「列車は三井野原駅の手前で、トンネルから抜け山肌を走ります。すると、少し前までいた出雲坂根駅がはるか下に見えます。それがすごいイリュージョン、驚きです」

 南田さんが木次線を訪れたのは11年の秋。その時は、出雲坂根駅で途中下車し、町営バスで近くの川にかかる橋まで行って紅葉を眺めた。黄、赤、緑。多彩な色合いの紅葉が、山肌を彩っていたという。

「冬になって沿線に雪が降り積もると、列車は運休になります。秋の鉄道旅は、冬が来る前の楽しみです(笑)」

日本で一番海に近い駅

 そして、鉄道好きの私(筆者)がおススメの秋の鉄道を一つ。JR四国の「JR予讃線」だ。高松(香川県高松市)~宇和島(愛媛県宇和島市)間、全長約298キロ。四国北部の海岸線を忠実にたどる鉄道で、海、川、山、そして街と、変化に富んだ車窓の眺めを楽しめる。中でも途中の下灘駅(同伊予市)は、「日本で一番海に近い駅」で知られる。

 何もない無人駅のその先の海は、どこまでも青く、どこまでも美しい。見上げると、秋の空が高く澄みわたる。

 秋の鉄道旅でしか味わえない、感動がある。(編集部・野村昌二)

南田裕介さん(みなみだ・ゆうすけ)/1974年生まれ。芸能事務所ホリプロのマネジャー。著書に『貨物列車マニアックス アイ アム ア 貨物ボーイ!』など(写真:本人提供)

AERA 2024年10月14日号より抜粋

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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