いよいよ秋の行楽シーズンが到来。せわしない日常から離れ、ときには列車に揺られる旅を楽しんでみてはいかがだろう。ホリプロのマネジャーで、大の鉄道好きで知られる南田裕介さんのおススメを紹介する。AERA 2024年10月14日号より。
* * *
秋の鉄道旅は、旅愁をかきたてられる。
「秋の日はつるべ落としと言われるように、すぐに日が暮れます。とくに吉野の山奥は日の入りが早く、この列車は秋のわびさびを感じられます」
と話すのは、ホリプロのマネジャーで、大の鉄道好きで知られる南田裕介さん(50)。
「乗り鉄」の南田さんが最初に挙げたのが、奈良県中部を走る「近鉄吉野線」だ。橿原神宮前(奈良県橿原市)から吉野(同吉野町)まで約25キロ。
秋、列車はススキの穂が揺れ、民家の庭先に柿の実がなる市街地を抜け、山間に分け入る。やがて列車は、近鉄大和上市駅(同)と吉野神宮駅(同)の間の吉野川に架かる吉野川橋梁を渡る。全長242メートル、吉野の美しい自然と調和し、車窓からの景色は格別だ。
圧巻は夕暮れ時。日が沈んでゆくのにつれ、空の色が刻々と深くなる。オレンジ、あかね、紫──。
「あっという間に日が暮れる、あの感じを味わっていただきたいです」
昭和にタイムスリップ
次に南田さんが挙げる「小湊鐵道」も、秋は儚さを感じさせる。
「昭和にタイムスリップできる鉄道です」
千葉県の房総半島の中ほど、五井(千葉県市原市)~上総中野(同大多喜町)間、全長約39キロのローカル線。
沿線はのどかな里山の風景が広がり、そこを走るのが、ちょっと古いキハ200形やキハ40形など。旧国鉄時代に製造された国鉄型車両だ。
「駅舎もどこも古くて、昔の田舎の風景がいまだある感じです」
列車は地域の住民も多く利用する。部活帰りの学生や、仕事帰りの会社員。休日に、街に買い物に行った帰りに乗っている中学生たちを見るのも、微笑ましいという。
途中の上総久保駅(同市原市)の傍らには、一本のイチョウの大木がある。高さおよそ20メートル、樹齢70年以上。駅は無人駅。秋になると、短い列車がイチョウの大木に寄り添うように止まり、陽光を受けイチョウが黄金色に輝く。
「タイムスリップの演出を、イチョウがしてくれます」
秋の鉄道旅の魅力は、夏のようにテンションが上がるのではなく、落ち着いて行けることだと南田さん。