イラスト:サヲリブラウン
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 作詞家、ラジオパーソナリティー、コラムニストとして活躍するジェーン・スーさんによるAERA連載「ジェーン・スーの先日、お目に掛かりまして」をお届けします。

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 先週号でお伝えしたとおり、久しぶりの単行本に向けた加筆修正に励む毎日を送っています。それ以外にも通常の連載やラジオ、ポッドキャストの収録があり、加えて依頼された本の帯コメントや寄稿原稿もある。端的に言って、忙しい。しかし、私はプロレス観戦をひとつも諦めたくなかった!

 プロレス。すでに「どうかしている」の範疇に入っていることは薄々自覚しています。多い時は週に3回くらい観に行っているもの。

「推し活」という言葉にもだいぶ手垢がつき、使いたがらない人も増えました。メンズコンセプトカフェ店員の売り上げを上げるため、未成年がいかがわしい仕事に手を染めるというニュースにも推し活という言葉が使われていたし。広まると、どんどん雑な扱われ方をするのが流行り言葉の宿命とは言えアバウト過ぎ。

 なので、プロレス観戦を「推し活ですね!」と言われると、やや抵抗を感じる昨今。趣味です!と言い切り、私はその場を去ります。熱量をもって説明したところで、相手に迷惑だもの。

 で、仕事。本当は仕事なんかしている暇はないのです。しかし、働かないとプロレス観戦に行くお金がなくなります。なんという難題。

イラスト:サヲリブラウン

 プロレスばかり観ているから仕事が疎かになっているとは言われたくはないし、そんなことでは次の仕事がこなくなる。なにより、プロレスのせいで仕事の質が下がったら自分のことが嫌いになってしまう。中年になったら、自分を嫌いになることだけは避けたほうがよい。しかし、観戦は我慢したくない!

 アンビバレントな心を持て余して出た結論は、どっちもしっかりやる、でした。ハードスケジュールを全うするしかないのだ。

 普段は集中力ゼロに等しい私ですが、「どちらもやる」と決めた途端、パワーが漲ってきました。そして、ついにやり切ったのです。観たいプロレスを観て、すべての仕事を予定通り終わらせました。私、すごいかも!

 詳しい人に聞いた話ですと、世界のサッカーファンはオフシーズンに集中して働き、それ以外はすべて観戦に時間を充てるそうです。なんてうらやましい生き方。私もいつか、そんな風に暮らしたい。

 問題は、プロレスの大会にはシーズンオフがなく、一年中開催されているってこと。嬉しい悲鳴とはこのことです。

AERA 2024年10月14日号

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ジェーン・スー

ジェーン・スー

(コラムニスト・ラジオパーソナリティ) 1973年東京生まれの日本人。 2021年に『生きるとか死ぬとか父親とか』が、テレビ東京系列で連続ドラマ化され話題に(主演:吉田羊・國村隼/脚本:井土紀州)。 2023年8月現在、毎日新聞やAERA、婦人公論などで数多くの連載を持つ。

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