研修で学んだのち、学校側のオフィスから仕事の依頼が来るようになるのですが、オファーをもらったら大事なのは迅速に返事をすること。特に契約書を作成するために、24時間以内にクライアントに電話して内容の確認をしなくてはなりません。「会場の入口はどこですか」「参加者は何名いますか」「どんな曲をリクエストしますか」などなど。クライアントとコミュニケーションをとることの大切さも学びましたね。そうやって打ち合わせをしたら、次は契約書のドラフト(下書き)を自分で作成します。テンプレートをアレンジする形ですが、作成したドラフトに不備などがあった場合、学校からの評価が下がり仕事が来づらくなるという、まさに実践の場でした。もちろん、失敗してもその後頑張れば評価を挽回することはできるんですけどね。仕事の報酬もわりとよかったので、みんな一生懸命取り組み、契約書を作るのがどんどん上手になっていきました。卒業後を見据えた実用的な取り組みは、当時のアメリカの他の音楽学校にもあまりなかったのではと思います。
Q. 廣津留さんがクラシックの世界で感じる“進化”はありますか?
A. 以前よりも間口が広がっていると思います。分野を超えたいろんなコラボレーションが行われたり、これまであまり光が当たってこなかったマイノリティーの音楽家が注目されたりしていると感じます。同時に、若い音楽家たちがセルフプロデュースして有名になったり、YouTubeで発信したりと、これまでとは異なるキャリアの積み上げ方が広く受け入れられるようになっています。
私と同世代くらいのアメリカの音楽家たちは、“オンラインプレゼンス”をすごく考えている人が多いですね。いわゆるオンライン上での自分の存在感や影響力のことで、これをいかに高めていくか。これは、YouTubeなどの登場で気軽に演奏を視聴できるようになり、演奏者も他の人との差別化がより大事になってきているからだと思います。クラシック界は聴く側も演奏者側も変わっていこうとしている、まさに過渡期なのではないでしょうか。
構成/岩本恵美 衣装協力/BEAMS