学校や仕事、生活での悩みや疑問。廣津留さんならどう考える?(撮影/吉松伸太郎)
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小中高と大分の公立校で学び、米・ハーバード大学、ジュリアード音楽院を卒業・修了したバイオリニストの廣津留すみれさん(31)。その活動は国内外での演奏だけにとどまらず、大学の教壇に立ったり、情報番組のコメンテーターを務めたりと、幅広い。「才女」のひと言では片付けられない廣津留さんに、人間関係から教育やキャリアのことまで、さまざまな悩みや疑問を投げかけていくAERA dot.連載。今回は、アメリカの音楽教育について答えてくれた。

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Q. 日本とアメリカの音楽学校の教育について、違いを教えてください。

A. 私は日本の音楽学校には行っていないので比較することはできないのですが、アメリカではどの先生からも「あなたはどう弾きたいの?」と必ず聞かれます。日本でバイオリンを習っていたときは、先生の指導の通りに弾くのが良しとされていたので、最初は少しとまどいました。アメリカでは「自分はこう弾きたい」というイメージを言語化できないといけないんです。先生からは弾き方を教えてもらうというよりは、自分が目指す方向へのアドバイスをしてもらうという感じでしょうか。つまり、「あなたの弾き方を伸ばします」という指導のスタイルなんです。

 また、私が在籍していたジュリアード音楽院でユニークだなと思ったのは、アントレプレナー(起業家)に必要なスキルを身につけるための授業があったことです。例えば魅力的なプロフィールの書き方やエレベーターピッチ(15〜30秒の短時間で自分自身やビジネスについてプレゼンすること)を実践するためのレクチャー、弁護士が契約書の書き方を教えてくれる出張ワークショップなど。音楽家として独り立ちするために必要な学びが充実していました。

 そうした授業に加えて、ジュリアードでは学生に対し、演奏に関する外部の仕事を仲介してくれるシステムもありました。仕事の依頼をもらうためには研修を受ける必要があるのですが、そこで契約書の書き方をものすごく細かく教え込まれるんです。例えば、野外で演奏する可能性がある場合は「日陰になる場所がないと弾きません」といった一文を入れる、椅子が必要な四重奏の場合は肘掛けがある椅子では弾けないのでアームレスチェアを4脚用意してほしい旨を明記する、といった具合です。口約束ではダメなんだと実感しましたね。

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